潮読みは釣果の決めて!
大抵の釣り人なら潮見表(潮汐表ともいう)のお世話になっています。ネット時代の今日ではスマホで便利に閲覧できるようになりました。しかし初心者の方はもちろんベテランでも、中身そのものについてはお経の文句のように理解しがたいものでしょう。海は天体の運行に支配されています。ちょっと難しいかもしれませんが、潮のメカニズムや釣りとの関係、さらに潮見表の活用法を解説してみましょう。
潮汐~早い話、地球が自転しているから
図をご覧になればよく分かると思います。月が一番近づいた時に、海水が月の引力により引き寄せられ、満潮(水位が最高)が起こります。直角に位置する部分は、海水が引かれるため干潮になり、その影響で反対側でも満潮現象が起こります。地球は1日に1回転しますから、1日に2回/約12時間おきに潮の満ち引きが繰り返されます。これがいわゆる潮汐です。
日に2回満干潮があるわけですが、同じ満潮(干潮)でも水位の高さが同じとは限りません。たいていどちらかの水位が高くなっています。ある程度、流れの強さは高低差に比例しますから、強い流れの時と弱い流れの時があるわけです。細かい潮見表になると時間だけでなく予測水位も書かれています。「いまが満潮のはずなのに意外と水位が変わらないな」と思うようなときは、水位が低い時の満潮と考えればいいでしょう。
右の図はある年の東京芝浦の潮位表ですが、午前中の満干の差が1mあるのに比較して、夜間の満干の差はわずか20cmしかないことがわかります。つまりこの日の夜は、昼ほどは潮が動かなかったということが、グラフから推測できます。
満干潮の時間は毎日変化しています。大体、前日よりも1時間ちょっとずつずれていきます。潮見表にはこの時刻(表によっては水位も)と後述する潮回りが記されており、釣り人の役に立っています。※釣りはともかく潮干狩りには絶対必要!見ておかないと手ぶらで帰る羽目になるよ。
いまが潮時じゃ~
この干満の差を10等分したのが潮時です。よくいわれる「上げ7分下げ3分狙い」などというのは、干潮から70%目の水位と満潮から30%目までの水位を表しています。しかし時計や物差しで正確に測れるようなものではなく、満潮時と干潮時を基準にした相対的なものと覚えておいて下さい。仮に干潮が6時と18時、満潮が12時だとすると、上げ7分は10時すぎ、下げ3分は14時前となります。つまり満潮前後の約4時間弱が勝負というわけです。
余談ですが、日常会話でも「いまが潮時~」とよくいいます。いま現在、いいタイミングだからチャンスを逃がすなということです。昔の帆船はエンジン動力がありませんでした。ですから上げ潮に乗って入港し、下げ潮に乗って出港したのです。けっこう含蓄のある言葉です。
大潮小潮~早い話、お日様も引っ張るから
お月様は地球の周りを回っていますが、地球も太陽の周囲を回っています。潮汐はこの月と太陽の双方から影響を受けています。これがいわゆる潮回りです。約15日周期で変化しており、月の満ち欠けと関係しています。右図を見て下さい。太陽と月が直列に並ぶときは引力が強まり、海面の上昇が最大になります。逆に直角に位置するときは、引力がうち消される形になり海面の上昇が抑えられます。旧暦(太陰暦)では月の満ち欠け1ローテーション約30日が1ヶ月です。「十五夜お月様」が満月になる理由も分かって頂けましたね。
さて満干の差が大きい潮回りを大潮(おおしお)と呼び、小さくなる潮回りを小潮(こしお)と呼んでいます。その中間を中潮(ちゅうしお)と呼びます。大潮→中潮→小潮と変化しますが、潮が大きくなるときに限って小潮→長潮→若潮→中潮→大潮となります。中潮は「ちゅうしお」「なかしお」どちらで読んでもかまいません。
潮見表は、この潮回りと毎日の満干潮の時刻を統計学的に予測したものです。あくまでも予測ですから、満干潮の時刻については釣り場によって予測通りにならないこともありますが、潮回りは間違いありません。ちなみに図表の月のシンボルを覚えておいて下さい(○印)。これは月齢を表したものです。闇夜だから●、月夜だから○とでも覚えておけばいいでしょう。潮見表だけでなく、フィッシャーマン用の腕時計などにも使われています。
潮見表の穴
総体、流れのある方が魚はよく釣れます。活性が上がって餌を摂るからです。ですから潮の動きを読むことは大変大事で、潮の読めない漁師はいません。しかし大潮=潮がよく動く=よく釣れるというほど単純ではありませんし、潮見表そのものにも穴があります。ひとつひとつ検証してきましょう。分かった上で潮見表を使いこなせばよいのです。
時刻は釣り場で大きく変わる
潮見表には「○○港/○時○分満潮」などと書かれていますが、鵜呑みにしてはいけません。これは海上保安庁がある特定の測定箇所を計った過去の統計的数値です。実際は位置、地形やその年の外洋の影響で大きく変わります。私がよく行く釣り場では約1時間以上、潮見表より遅れます。通い詰めるとその誤差(時間差)が分かってきますから、その分誤差を補正して予測すればいいのです。
潮回りを選べる身分になりたい
潮回りは全国的に同じです。ですから行き先を変えても同じです。それに大半の読者の方は、お休みの日が決まっているはずです。この日がいい潮回りだと思っても、休んで釣りというわけには行かないはずです。与えられたチャンスで頑張りましょう。
潮時は釣り場、釣法、魚種でも変わる
瀬戸内、特に明石海峡付近では潮がごうごうと流れます。大潮などは川になります。一般的に満干潮時は釣りにならないと云いますが、ここでは満干潮時いわゆる潮止まりでないと釣りになりません。またカレイ狙いで遠投する釣り人も、釣り場によっては小潮回り干潮狙いに竿を出します。やはり速くなるとオモリが流され釣りにならないからです。ハゼなどは比較的時合いが長いですし、グレのように時合いを外すとさっぱりという魚もおり、潮時は様々です。
正確な潮見表が必要
釣具店でくれる潮見表にも色々あります。気をつけておきたいのは「姫路は神戸+○○分」のように代表的な港の満干潮時刻に加減して、その地の満干潮時刻を表しているダイジェスト版です。目安にはなりますが、計算が面倒くさく間違えやすいですし、数値自身が違う(実際は年中同じ数値ではない)ことも考えられます。やはり自分が通う釣り場の潮時が、きっちり掲載されているものを持つべきです。
潮見表のツボ
釣り場は場所、魚種、季節により大きく個性が異なります。統計的な観測結果でしかない潮見表を見ても、釣果を予測することは困難です。このあまり当てにならない潮見表をどう使いこなせばいいのでしょうか。それはずばり、あなた自身の釣果のデータベースに答えがあります。データベース(=経験の蓄積)がある人には潮見表は力強い見方ですし、ない人には只の紙切れです。
まずは潮見表を入手
上にも書きましたが、ある程度の精度のものをまず用意しましょう。海上保安庁水路部が発行しているような大層なものは必要ありません。ポケットに入れられるもので、自分が通う釣り場の潮回りが書かれているものでいいでしょう。遠方へ釣行するなら、その地の釣具店が無料で呉れるはずです。赤鉛筆で釣行日、潮時をマークしておきましょう。釣り場ではよく見間違えるものです。
必ず釣れるパターンがあるはず、それを見つけろ
私自身は横着者ですから、釣果の記録を取っていません。物覚えも悪い方ですが、勝手なことに、こと遊びに関しては不思議によく記憶しています。釣り場Aは上げ潮が好成績、釣り場Bは潮止まりでよく喰ってくる、Cは潮回りに関係なくぼちぼちアタリが出るとか、大体覚えています。このように釣り場それぞれごとの自分の釣果パターンが読めればしめたもの、潮見表の出番です。そのパターンを潮見表に当てはめればいいのです。
たとえば「この釣り場では大潮の下げで何回もいい目をしている」と分かれば、その潮回りと潮時を選ぶのです。希望的観測は往々にして外れますが、統計的推測は釣れる確率をある程度保証してくれます。実際、そのように実践して成功している釣り師もたくさんいます。潮時の誤差が分かるようでしたら、時刻を補正しておきましょう。より釣行時刻の目安が立てやすくなります。
釣果と潮回り、潮時を記録しておくのが一番
「いま、あなたが大物を釣ったとします。来年の同じその日、同じ釣り場、同じ潮回り、同じ潮時に、また大物が釣れるはずです。ただし太陽暦でなく太陰暦(いわゆる旧暦=月の運行による暦)で日付を記録しておかなければいけません」
これは昔聞き及んだ名人の話ですが、真偽はともかくなるほどと頷けるものがありますので、ご参考までに書いてみました。もっとも始めからデータベースは誰にせよありませんから、やはり潮見表を見つつ相関的なデータを積み立てて行く必要があります。初心者でも潮見表を見ることは、決して無駄ではなく将来役立ちます。
潮見表を忘れたときは
足下のイガイの層を見れば簡単です。イガイが隠れているようなら満潮時ですし、大きく見えているようなら干潮です。中間の潮時はイガイの見え加減で判断します。夜釣りなら空を見て下さい。満月あるいは新月でしたら大潮です。ちょうど半弦の月なら小潮、欠けた月や三日月なら中潮です。月が水平線なら干潮ですからこれから潮が満ち始めますし、真上に輝いていたら、いままさに満潮を迎えようとしています。横着者の笑魚はほとんどこれで済ませています。解説者としてお恥ずかしいかぎりです。
てっとり早いツボ
さて、これから始める人やアベレージ釣り師でしたら「データベース?それがあったら苦労せんわ!」と怒られそうです。では私自身の独断ですが、参考になるようなインスタント潮見を書いてみます。その通りに行かなくても怒ったらあかんよ~
上げ7分下げ3分というが…
時合いを評して、満潮前後がよく潮止まりは喰わないといいます。確かに湾内ではべたべたの潮止まりは食ってこないものです。しかし本流筋(海峡や外界に面したところ)では一見動いていないように見えても、じわりと底潮が動いているものです。注意深く観察しているとわかるのですが…。こんな時は気を抜いてはいけません。セオリーだけに縛られないように~。
むしろ上げっぱな、下げっぱなに集中しろ
経験的にいえることですが、潮が止まっていたときから動き出すときにアタリが連続することが多いものです。これは多くの釣り人が認めるところです。静止したときから動くときに一気に魚の活性が上がるのでしょうね。例え話ですが一時、瀬戸内海は家島諸島の磯にチヌ釣りに通ったことがあります。ここはいつ行っても、上げ止りから下げに入るときにアタリが集中しました。そのことを船頭に云うと「うんにゃ、ここは下げっぱながええ」という明快な返事でした。こうなると潮見表が役に立ってきます。数字を見ながら次回の釣行予定日を考えるようになります。
経験的にはやはり大潮~中潮か
あまり潮回りを気にしない笑魚ですが、地元の神戸港では大潮の方が成績がいいようです。もっともここは場所によっては大潮でもとろかったり、小潮でもよく流れる日があり、奥が深いというか、よく分からない時も多いのですが…。私自身の記憶では長潮、若潮がダメです。潮見表で若潮などと書かれているとげっそりします。いまだ理由は不明ですが、意見を同じくする釣り人も結構多いようです。流れにメリハリがなく、だらだら流れるだけだからという説もありますが…。
潮見表を鵜呑みにするな
前出しましたが、潮見表の時刻はある測定地点を元にした推定ですので、場所によって1時間ぐらい変動することはざらです。よく通う釣り場の潮の遅れは頭に入れておくことです。通うと分かるようになります。マニュアル人間の方は、どうも潮見表を頭から鵜呑みにするようです。総体的には、影響が遅く出る複雑な地形の湾内ほど遅れるようですね。
外洋に面したところでは
磯釣り、あるいは外洋に面した波止では、潮汐よりむしろ外洋の流れ(地球の自転から生まれる)の影響を受けます。紀州は太平洋に面していますから、黒潮の影響がもろです。黒潮が接岸して紀伊半島に当たると分岐して上り潮(大阪方面に流れる潮)と下り潮(東京方面に流れる潮)に分かれます。年によってこの流れはずいぶん変りますし、釣り場によっても上り下りの善し悪しがあります。潮岬などは下り潮がいいとされています。この方面に出かける方は覚えておいて下さい。
日本海では
場所にもよりますが、一般的に日本海は大潮でも潮位の差が非常に小さいのが特徴です。ですから潮回りより釣行時刻が大事になります。特に餌取りが異常に多い夏場の若狭湾のチヌ釣りでは、早朝未明からせいぜい朝8時までが勝負でしょう。
太平洋側では大潮の後の中潮に注意
太平洋側では「大潮の後の中潮がいい」といわれます。理由は朝夕のマズメ時が満潮とうまく重なるからです。ということは一日に2回チャンスがあります。これは相当美味しい話です。太平洋岸の方はぜひ覚えておいて下さい。
干潮時に喰わないもう一つの理由
干潮時には総体的に釣れないものですから、ベテランの中にはさっさと昼寝をかます人もいます。これも潮時を待つテクニックの一つです。しかしそれだけではありません。沖から手前へ駆け上がりになったような釣り場では、水位が低くなるにつれポイントが足下からどんどん遠ざかります。こういうときはかなり沖目を釣る工夫が必要です。逆に潮が満ちてくるとポイントが近くなってきます(河口では満ち潮に乗って魚が上ってきます)。人があきらめるような干潮時でも、しつこく釣りを続ける当道場の読者ならば、覚えておかなければいけない摂理です。
ついでのツボ
必ずしも潮汐とは関係のない話ですが、いっぱしの釣り師を目指すあなたのために、ちょっと参考になるお話を書いておきましょう。
潮より技の問題?
ウキ釣りをしているとき、潮が流れているときは全く釣れず、止まったらぽつぽつ喰ってきたという経験のある方もおられるでしょう。もちろんそういう潮時の時もありますが、これには技術的なことも絡んでいます。技術が未熟だと、仕掛けが流れで浮いてしまってタナが取れていないとか、風波で押し流されてポイントから外れているということが多々あります。流れが弱まると仕掛けがポイントに入り、タナも正確に取れますから、魚さえいれば食って来るという構図です。いい潮だったとは必ずしもいいきれませんね。
南~南西の風が吹くと
一般的に水温が上昇して濁りが入るので、釣りにはいいと云われています。もっとも釣り場の位置や地形で変わりますから、一概には当てはまりません。※南西から吹く季節風は気温の高い緯度の低い地帯から吹いてきますし、北西風はその逆です。
北~北西の風が吹くと…
気温の影響を受けて水温が下がります。それだけではなく冬場などは、一日中この風が吹き荒ぶと風波がだんだん強まり、やがて表層流と呼ばれる流れを作ります。海面下本来の潮とは異なる流れです。これがいわゆる二枚潮と呼ばれるやっかいな流れで、笑魚のようなB級釣り師が大苦戦する潮です。
西高東低ならぬ釣行東風~なんのこっちゃ!
またその地方によっても、釣り師の言い伝えが色々あります。神戸では「西の風より東の風に限る」と年寄り連中はいいます。私がよく行く田舎の船頭さんは東が吹くとダメといいます。これは水温と云うより地形の関係で海が荒れるのですね。そのような伝聞は長い経験に裏付けられた真理です。ですから自分の住んでいる地域でそのような言葉を小耳に挟めば、心に留めておきましょう。
日の出日の入り
他の章でも再三取り上げていますが、潮時と並んで朝マズメ、夕マズメは釣りのゴールデンタイムです。ですから日の出日の入りの時刻を知っておくことは、釣り師の基本的な心構えです。新聞の天気予報欄を見ても分かりますし、インターネットの予報なら潮回りも含めて知ることができます。
かくいう笑魚オジンはどうなのか
人より数多く釣ることに情熱を燃やした昔は、なんでもシビアにやりましたが、最近はずぼらで細かいことおかまいなし。思い立つとふら~と出かけてしまいます。あまり予備調査をすると気合いが入りすぎて殺気が魚に伝わるのでしょうか、準備万端の日ほど貧果です。こりゃ参考にならんか。
天文学はよぅわからん
本章ではとりあえず、釣りに関係するような潮汐のお話をまとめてみましたが、一年で一番大きい潮の日があるなど、ニュートンの法則はまだまだ面白い潮汐現象を生んでいます。私の浅学では、残念ながらその全てをお伝えすることができません。興味がおありでしたら、専門書でじっくり研究してみて下さい。
2019更新/11