磯のあれこれ
磯には国道から降りて、すぐに竿が出せる手頃な地磯から、渡船で渡る沖磯、1~2日がかりで遠征する南海の離島まで様々な形態があります。今回は磯に関する基本的な知識、用語を覚えてみましょう。
用語に関する豆知識
磯用語の呼び方は、地方により方言や使い分けがありますので、そこら辺は実地で覚えていただくとして、ここでは基本的に覚えておけばよい言葉を解説します。
方角の呼び方
まず一般に陸地側を地方(じかた)、海側を沖といいます。位置や方角を云うときは、南北をいうより「地方向きで釣った」とか「沖向きがポイント」と云ったり、「地方寄りの磯で釣った」などといいます。
位置による磯の呼び方
沖磯はその名の通り、沖に位置する磯です。陸地続きの磯は地磯と呼ばれます。沖磯でも陸地に近い磯を地方寄りの磯というときもあります。地磯でも水深が浅く流れがとろく、浜づたいの磯を、特に小磯といいます。メバルなど小物のポイントですね。
地形による呼び方
海に突き出た突端は崎(みさき)です。磯釣りではハナ(鼻)とよく呼ばれます(※○○のハナなど)。岬(みさき)という漢字を当てる場合は、潮岬など大きい地形を表す場合で、磯釣りのポイントのような小さな地形を表す場合は崎(※○○崎)が一般的です。小さな入り江や窪み状の地形をワンドといいます。また谷のように急峻に割れ目が入った地形をワレといいます。ワレはサラシ(後述)が立つことが多く、狙い目によってはポイントになります。また、地方と磯、磯と磯との間で特に狭まった区域を水道といいます。流れが速くなります。
水深が浅く足場が拡がる水辺は浜と呼ばれます。浜にはよくご存じの砂浜に加えて、砂利で形成された砂利浜(渚釣りなどチヌ狙いの人がよく通うポイント)や、丸いゴロゴロとした石で形成されたゴロタ浜もあります。グレを代表とする磯魚の有力なポイントですね。
磯の呼び方
磯は様々な方言で呼ばれています。一般に紀州ではハエ、ハイ、若狭ではグリ、関東では瀬など様々です。大きい磯から少し離れた小さな磯を指すときは、ハナレと呼ぶことが多いようです。小さいものを特にチョボとよんだり、紀州ではコジと呼んだりします。たいていの磯には固有名称が付けられていますが、地磯には名前の付いていないところが多く、こういった磯は無名磯と呼ばれています。
図中でシモリと書かれてあるのは海上に頭を出していない磯、すなはち沈礁のことです。隠れ根とか、沈み瀬と呼ぶ言い方もあります。シモリがあると、そこだけは海の色が濃く見えるので、たいていは分かります。魚が居着く絶好のポイントです。
潮流の呼び方
本流とは本来、黒潮のように地球の自転から生まれる海流を指しますが、磯釣りでは沖を流れる大きい流れのことを云います。本流が地形の変化や磯に当たってできるのが、支流です。分岐する流れですので分岐流とも云います。本流と支流、あるいは支流同志が当たる接合点では、水の壁のようなものができます。これがよく云われる潮目です。エサが溜まりやすいので狙いたいポイントです。
強い本流が流れる複雑な地形の所では、足元から引かれるような流れや反転するような流れも生まれます。引かれ潮とか反転流と呼ばれるような流れで、釣りやすい潮です。磯に当たってくる潮を当たり潮と云います。これは上物釣りでは嫌われる潮ですが、底物釣りでは本命潮になります。ワレや足元が隆起しているような磯では、波の上下動でサラシと呼ばれる白いうねりが立ちます。酸素濃度が高く、魚の活性が上がるためポイントになります。ハライダシとかハケと云う呼び方もあります。
面白い磯の固有名称
釣り師が通うような磯には、たいていその地で船頭さんから伝承されてきた固有名詞が浸けられています(※○○バエ、○○瀬など)。人間が思いつくことは同じですから、固有名詞といっても、各地で同じ名称がつけられていることも多いですね。その磯を見たことがなくても、呼び名がわかれば大体の磯のイメージを掴めます。ちょっと例を挙げてみましょう。※写真は潮岬のオオクラ。うりた渡船さんから借用。
- ○○島
磯は島ではありませんが、島と名が付くような磯は、たいてい10名以上が渡礁出来るような大きな磯が殆どです。 - 一の○○
数字がついているときは、たいてい近所に列島式に連なる磯があります。
※例)一のハエ、二のハエ - 赤○○
赤グリ、白島など色が名前につくときは岩肌の色を指す場合が多い。 - 沖の○○
沖と地はたいていセットになっています。地方寄りが地になります。
※例)沖の寺島、地の寺島など - ○○の親
親と子もセットです。もちろん大きい方が親です。
※例)アシカの親と子 - 馬の背
磯の断面が、馬の背のように三角になっている磯です。たいてい足場が悪く往生しますよ。 - 立神
昔の人は自然崇拝から、海中から屹立するような大きい岩を神として祭ったようです。各地にあります。 - 人名
人名がつく磯は、たいていその磯にゆかりがある船頭さんの名前や、過去大釣りした釣り人の名前が付けられています。 - 動物名
その動物をイメージする形状とか、まさにその動物が棲んでいるところから由来。
※例)亀島、ライオン、カモメ、タカノスなど - 外観
その外観から来た名前です。※例)双子島、軍艦、三角、老人岩など - 番号
渡船屋さんが磯渡しをするようになってからつけられた名称でしょうね。たいていは島です。※例)院下島の3番、毛島の7番 - 危険予知
天候急変に注意。※例)波かぶり、波懸け、シオフキ、トビワタリ - 可愛い名前
釣り人がつけたのでしょうね。※例)すべり台、明星、水族館 - 家族向き
足場が広く、ゆったりできる所です。※例)タタミ、千畳
磯には面白い名前がたくさんあります。私の好きな名前を挙げると、伝説めいた七蛇ノハナ、なんとなく面白いホンタライ・スズキアジロ、由来が気になるローデノハナ、勇壮なスバル・直列五島、ユーモラスな割亀・ちゃびん・一本松、などなど上げればきりがありません。磯釣りは海と伝承を訪ねる紀行でもあります。ぜひ言い伝えの由来をひもといて、名前に込められた釣り人の心や知恵を想い親しんで下さい。
地形と岩質
地形は一目で分かりますが、海底を見ることはできません。そういうときは自分が立っている地形を判断して、海底の様子を判断しましょう。
勾配で判断する
左図は平面を表した図です。図では崎は急勾配になっています。こういう場合、海底も急勾配になっていると考えればよいのです。またワンドは緩勾配です。この場合も、海底は緩勾配と考えればよいのです。総じて海底の地形は、地上の地形と相似形と考えれば間違いありません。ですから図のような崎は海底でも、崎となって沖へ伸びている(張り出している)ことが多いのです。ですから、仕掛けを深いタナで流す場合、急勾配の磯なら足元から水深があるので大丈夫ですが、緩勾配の磯なら根かかりが心配と云うことになります。
岩の質に対する注意点
磯は岩礁です。岩は火成岩と水成岩に大きく別れますが、黒っぽい火成岩系統の岩は足がかりがよく、滑りにくいのが特長です。一般のスパイクブーツで充分です。問題は灰色や褐色がかった水成岩です。火成岩がごつごつしているのに比較して、水成岩はつるりとした岩肌ですから、すぐに分かります。濡れていなければよいのですが、濡れるとすごく滑りやすくなります。苔でも生えていれば最悪ですし、雨降りも油断できません。この手の岩の場合、スパイクでは歯が立ちません、フェルト底の磯ブーツをお勧めします。苔でツルツルの川に立ち込んで釣るウェイダーの靴底が、フェルトでできていることからもお分かりですね。
岩の質でブーツを選ぶ
私も長らくスパイクブーツを履いていましたが、2度ほど危険な目にあったため、フェルトとスパイクを使い分けられるブーツを購入しました。行く磯で使い分けるためです。若狭、瀬戸内ではスパイク、紀州、紀東ではフェルト底を使用しています。新規に磯ブーツを買うときは、自分の行き先の磯の岩質に合わせて選んで下さい。分からなければ、磯釣りに詳しい店員さんに指導を受けて下さい。いずれにせよすり減ったスパイクや、摩耗したフェルトは交換して下さい。状況の悪い磯では必ず転倒事故を起こします。