タックルバランスを考える
釣りも経験を積むと、自分の趣味嗜好というのが分ってきます。自分が通う海、好きな魚、好きな釣り方にあった仕掛けや道具が、自然と見えてくるのですね。釣果だけを追いかけているのではなく、自分のスタイルというものが完成してきます。タックルバランスもそのステップで考えていけばよいのですが、やはり守るべきセオリーがあります。今日はそのセオリーのお話。
タックルバランスってなんだろう
タックルバランスとは、竿から鈎までを含めた仕掛けの強度的なつり合いをいいます。一般的にタックルバランスといえば、細仕掛けの弱さを補うために竿やライン、リールをそれに見合うものにコーディネイトし、全体として強度のバランスをとるというイメージがあります。つまり繊細な喰わせ仕掛けを使いこなすための、タックルコーディネイトという考え方です。
もちろんこの考え方で正しいのですが、形だけを真似た見よう見まねでは賢いタックルシステムは構築できません。やはり自分の釣りのスタイル、釣りの技術がある程度確立されている必要があります。費用や手間をかける意味がありませんし、使いづらいだけだと思います。そこでタックルに求められるものを整理してみましょう。
必要な強度の確保
せっかくの大物を掛けてもあっさりばらしたり、竿が折られるようでは話になりません。まず強度の確保は第一です。
喰わせることのできる仕掛
仕掛けは対象魚、釣り方との相関関係がありますから、これが絶対というものでもありませんが、やはり定評のあるものは試す価値があります。
1日使い続けることのできる快適性
持っているだけで疲れたり、トラブル連発では使うのも嫌になります。質実剛健かつ快適なタックルは釣人の味方です。
人間は感性の動物
人間には情緒があります。合理性だけでは趣味としての楽しみがありません。やはり思い入れができるものを使ってこそ、より豊かな時間が過ごせます。
こうやってみると、単に仕掛けの強度のみを追いかけるのも問題ですね。全く同じ釣りをしていても10人の人には10人の道具があります。つまり10人のタックルバランスがあるのです。
まずは何から考えるのか
皆さんは釣り道具を選ぶときに何から考えますか? たいていの人は竿からでしょうね。初めて釣り道具屋さんに行ったときも、まず竿を選んだと思います。間違いではありません。分りやすいからです。まさかウキやサルカンから買う人はいないはずです。しかし買い物としてはそれでいいのですが、タックルバランスを考えるときは問題です。なぜか?魚は釣人の竿なぞ見てエサを喰うわけではないからです。ちょっとウキ釣りを例にとって見ると…
一般的な釣人の発想(買い物・仕掛け選び)は~
まずは 竿→リール→道糸→ウキ→ハリス→鈎 となる
しかし魚(力の伝達方向)から見ると~
本当は 鈎→ハリス→道糸→ウキ→竿→リール となるはず
賢明な読者でしたらもうお分かりですね。買い物の順番としては、予算もかかり目を引く大道具から初めてもいいのですが、ことタックルバランスという点では、小道具から考えた方が合理的なようですね。
自分の道具の本当の強度を知っているのか
当道場へのご質問やお便りの中には、ずいぶんハリスや道糸の号数、あるいは竿の強さの選択についてのお問い合わせがあります。強度に不安とか、ばらしたから云々という文章を拝見するわけですが、共通して云えることは皆さん、イメージだけでご自分の使っているタックルの本当の強度をご存じではないようです。昨今の釣り具の強度というのは素晴らしいもので、よほど変な代物を使っていない限り、普通の釣りものに強度不足というのは考えられません。テストしてみましょう。
まず、ご自分の常用している竿にリールを付けて、庭へ出てみて下さい。手頃な処に道糸を結んでみましょう。魚替わりにお子さんに糸を持たせても面白いです。ドラグは締めておいて下さい。さぁ、魚を掛けました。竿を立てて下さい。どんどん竿は曲がります。釣り場では、それだけ曲げたことはないでしょう。もっと曲げましょう。糸は切れないはずです。竿が折れないか~不安になりますね。もぅやめましょう。本当に折れるかも知れません。
次はハリスを1ヒロほど結んで下さい。2号程度のハリスでいいでしょう。同じ実験です。今度も切れなかったはずです。次は1.5号でやります。まだ切れないはずです。最後に1号でやりましょう。じわーと力を掛けていくと…今度は切れたでしょう。サルカンの処から飛んだはずです。それでも結構強かったでしょう。
渓流竿とかヘラ竿、あるいはチヌの軟調子の竿があれば、1号のハリスを掛けて同じテストをして下さい。ぐぅと曲げてみましょう。あら不思議、今度は切れません。竿先が手元寄りになるまで、曲げても切れないはずです。これがタックルバランスです。
今度はドラグを調整してみましょう。竿が満月になるとジリジリと糸が出るよう、シビアに調整してみて下さい。さぁ同じ実験です。今度はどうですか? 竿をいくら立てても糸が出るだけです。切れませんね。これなら細い糸でもまったく問題ありません。これもタックルバランスです。
短竿や筏竿の方でも、同じ実験をしてみて下さい。こんなに糸は強かったのかと思うはずです。ただし竿が折れそうと思ったらすぐにやめて下さい。本当に折れます、それぐらい最近の糸、それも新品の高級品なら素晴らしいものです。
この実験をして、タックルの強さというものがよく分ったと思います。私を含めて一部の釣人が細い糸を使うのは、細い糸なら釣れるのではなく、細い糸でも必要にして充分だからです。
テスト結果を検証してみよう
さぁテストの結果を検証してみましょう。
- 糸の強度は素晴らしい。実際の釣り場で竿を満月に曲げるほどの大物と遭遇するだろうか?少なくともワンランク下げても充分だ。
- 糸を細くすると確かに切れる。切れるのはハリスの直線部分ではなくサルカンとの結ぶ目だ。つまり直線強度より結節強度が問題だ。
- 弱い糸に強い竿だとすぐ切れるが、弱い糸に弱い竿の方だと竿が曲がるだけで、切れない。弱い竿のメリットがひとつ発見できた。
- ドラグをちゃんと調整すると、細い糸でも全く問題なかった。
これらのことは皆さん、頭の中ではよく分っていたと思います。しかし限界まで竿を曲げたり糸をひっぱたりしたことはなかったと思います。まぁ根かかりを切るのはテストになりませんしね(笑)
結論的に云えることは、タックル強度だけで云えばワンランク下げても問題ないようです。では竿の号数を下げることにはどんなメリットがあるのでしょうか。
- 竿は単純に軽くなる。持ち重りが減るので、手持ちでも快適さが増す。
- 細身になれば風の抵抗が減るので、風の強い日は楽になる。
- 竿の号数が下がるほど穂先の感度は増す。穂先アタリも取りやすくなる。
道糸ははっきりメリットが体感できます。
- さばきやすさが増しテクニックが使える。
- 遠投性が増し、風にも強くなる。
- 水切れがよくなり、アタリへの感度も向上する。
ハリスを細くするメリットは対象魚で決まると思います。太いハリスを嫌がる魚もいますが無頓着な魚もいるからです。また夜釣りでは細くするメリットはありませんしね。ハリスと鈎については別項で扱いましょう。
タックルバランスの考え方
今までのこと述べたことを、まず頭に入れていただかないと、タックルバランスの話はできませんでした。タックルバランスといっても方程式や決まりがあるわけでなく、あくまでも私個人の経験や感想ですから、ご異論もあるかと思います。いずれにせよタックルバランスとは弱点を作らないことですから、そこらへんのチップスも含めてセオリーを箇条書きにしましょう。
弱い仕掛けに強いところを作らない!
小物釣りには徹底して道具も弱くします。一つでも強いところがあると何処かに負担がかかります。鈎のような小物といえ例外でありません。例えば0.8号ハリスを使うメバル釣りにチヌ鈎では、ハリスに負担がかかります。鈎もある程度ショックを吸収するような細地を使うべきです。この方が良型のハネクラスの他魚がかかっても、かえってショックをいなせるのです。大物を掛けたら糸が切られずに、鈎が伸ばされるようになったら、仕掛け作りがわかってきたと云うことです。サルカンなども落としてやるといいでしょう(環が細い物はよくないが)。
強い仕掛けに弱いところを作らない!
上記よりはわかりやすいとおもいますが、大物釣りには徹底して弱いところを作らないことです。例えば強い糸に弱い竿では、仕掛けが強靱なだけに竿に負担が集中します。強引をものともしない反発力の竿、巻き取りパワーのリールを用いるべきです。
小技もタックルバランスのうち!
糸が切れるときは根ズレを除いて、そのほとんどが結節部あるいはガン玉を打っている処から切れます。結びあるいはガン玉打ちの技術は非常に大事で、結び方を替えるだけで10%以上強力になることもあれば、下手なだけで10%以上落ちることもあります。繊細な仕掛けほどこの手の技術が要求されます。これもタックルバランスを考える上で非常に重要。理論を成立させるためには技も必要です。
鈎も重要だ!
くどいですが、鈎という小物も忘れられがちです。ハリスを落としたら鈎も落とさなくてはいけません。喰わせ云々より強度のバランスが保てなくなるのです。分かりにくいでしょうから、実例でお話ししましょう。例えばチヌ鈎2号を使っているとします。ここでハリスを1.5号から0.8号に落としたとしましょう。たいていの人は鈎を落とさないはずです。しかし仮に20号の糸に石鯛鈎を結んでいて、3号のハリスに替えたらどうします?本能的に鈎のサイズを落とすはずです。見た目だけでなく強度のバランスが悪いと云うことがわかるからです。
細いハリスに強い糸を結ぶと糸が負けます。逆に強い糸に弱い鈎を結ぶと、大物が掛かると鈎が伸ばされてしまいます。金袖のような一見か弱い鈎でも、細い糸ならバランスがよく意外と引きに堪えるものです。細かいところですが重要です。タタキが角張っているような鈎に細ハリスは使えません。角が鋭いので必ずそこから切れるのです。いい鈎を見る目を養いましょう。
目に見えない余裕をとる
結びの技術の範疇になりますが、糸は締めるとかなり弱くなります。巻き付けるときに大体5%位は細くなるようです。これが強度の低下を呼びます。ですから糸はクリンチノットのように、力が掛かると締め込まれるような結び方は基本的に弱いのです。いいのはルアーのリーダーのように編み込んで結節する方法です。超極細糸を使う鮎釣りの結びは編み込みです。糸を締め付けないので理論値に近い強度が発揮できます。しかしこの結びは手間を喰うので実用的ではありません。
鈎については、枕を入れると約5%強度が上がります。ここらもわかっておいて欲しいですね。また添え糸を結んでチモト補強をしてやると糸は信じられないぐらい強いものです。よく糸を結ぶときに最後にギュと締める人がいます。安心できるようですが反対です。間違いなく強度が落ちます。最後の締め込みは魚に締めさせるようにするのです。これが余裕です。
古い糸では話にならない
いくら高級品でも古くなるとダメです。よれや紫外線による強度低下がありますが、大物を釣り続けても問題があります(笑魚や読者には関係ないかも…)。普段使うナイロンの糸でしたら、沖で大物を掛けて引っ張り合うと5m以上は伸びるはずです。伸びても大して強度が低くなるわけではありません。糸の伸びは竿のしなりと一緒で、タメになります。伸びがないと切断に至るまでの時間が一気に短くなり、ばらす可能性が高くなります。古い糸が問題なのは、この伸びのキャパシティがなくなっていることです。毎回巻き替えるわけにも行かないでしょうが、少なくとも釣り終わったら10m位はバサッと切り捨てて、少しでも新しい糸を繰り出すようにしましょう。
あわせ切れではもっと話にならない
幸か不幸か、私はいまだにあわせ切れという経験がありません。ですからあわせで切れるというのが不思議です。ルアーではないのですから、そんなに強く合わせなくても鈎は充分掛かります。タックルバランス以前の問題ですね。ルアーでも、ゲーム系のシビアな釣りをする人は4ポンドでスズキを狙っています。あわせ切れするというような人は、一生こういうデリケートな釣りを知らずに終わることになります。実際はたで見ることもありますが、糸なりがするほどアワセを強く入れる人に名手はいませんね。
細仕掛けが名手というわけではない
喰わせ優先と云うことで、ハリスのみ細くしている人がいます。これが非常にナンセンスと云うことはわかっていただけたと思います。また大事なことは、めばるのような小物釣りを除いては、仕掛けの強度はその釣り場で狙える最大の魚に照準を合わせるべきです。例えばスズキでしたら、私の通う波止ではいい時期になれば90cmオーバーが出ます。この時は、このサイズに照準を合わせ私は仕掛けを作ります。夜釣りなら1.5のハリスを2号まで上げます。2号まで上げると、1号の磯竿を目一杯満月にしてためることができますから、気合いが入ります。結果1日粘ってセイゴが1匹でもいいのです。ばらして悔やむよりはずっといいはずです。
さぁ、タックルバランスの考え方がお分かりいただけましたか。「何号のハリスならばらさないのか」というような話は、ナンセンスと云うことがわかりましね。自分の下手さを宣伝しているようなものです。
まとめ
自分自身よくばらしましたし、人のバラシもよく見ました。たいていは魚に先手を取られて根ズレというケースがほとんどですが、たまにタックルバランスが悪すぎるという例を見ることもあります。案外ベテランが多いようです。総体、道具が強すぎるようです。こういう道具を使っている人は、道具の強さに頼っていますから魚と引っ張り合いをします。当然ドラグなど調整していませんから、竿を立てて腰だめです。ビニール袋を一枚引っかけても、とんでもない重さになるということはご存じですね。魚が細い仕掛けでも釣れるのは、魚が泳いでいるからです。死んだ魚を取り込むのは大変ですぞ。
そういった摂理を無視して引っ張り合うと当然のごとく、倍の力が糸に掛かります。下手な結びに負荷が集中して、多少の糸でもプッツンと云うことになります。ベテランでもこういう人が多いことからわかるように、合理的科学的な物の見方ができないとダメです。タックルバランスとは、細仕掛けで魚を釣るためのテクニックではなく、最大の仕事をさせてやるコーディネイトなのですから。