海をなめるといけない話

釣りのステッカーとTシャツの音海屋
おっとろしかったこと

というお題で、第6回国勢釣査を実施したところ、水難関係が占めるかと思いきや、なんと恐いではなく怖い話が多かったです(笑)それはそれで…背筋も凍るという話がありますが、身の危険という恐ろしさからは遠いと思います。まぁ私のサイトにアクセスする方は波止釣りの人が主体なので、海の怖さを如実に感じた人は少ないかも知れません。だからといって海をなめてはいけません。やはり海難事故というのは毎年ありますし、それもいたって平凡な釣人が出会うものなのです。ちょっと私の経験談を交えてお話ししたいと思います。

日本海は高浜和田のお話

もうずいぶん前になりますが、家人と二人で若狭の和田と云うところへ出かけたことがあります。港内が現在の姿に改修する以前のことです。ここは手頃な波止釣りの場として人気があり、当時は養殖筏が港内に掛けられていましたから、こぼれエサを目当てに集まってくるチヌもよく釣られていました。さて当日は太平洋方面で台風が発生したとのことで朝から雨が降り、釣り人の姿などどこにも見かけません。「あかんなぁ」と話しつつ車を走らせていると、空に明るい切れ目が見え心なしか風雨が弱まっています。

「やれそうやんかぁ。低気圧は釣りにいいのよ。ポイント独り占め~」
などと脳天気な二人は休業中の餌屋の戸を開け、あきれるおばさんからオキアミを手に入れると、るんるんとばかりに波止へ急いだのです。ここはかなり高い防潮堤に囲まれていますから、外洋のうねりは入ってきません。当時は車を乗り入れできたので、中途で降りてから荷物を持って先端近くまで二人で移動しました。沖向きは高い防潮堤を越してテトラになります。こんな日は内向きの港内側でしかやれません。

「さぁ~今日はどんな仕掛けでやろかいな♪」
ふんふんと仕掛けを作っていると、小雨だったのが急に雨足が強くなりました。
「あら~いままでええ天気やったのに…、まぁ風がなかったらええわい」

とばかりに仕掛け作りを終え、二人並んで釣りを開始です。しかしそう間も立たないうちに風も強くなってきました。竿が風にとられます。「あかんがな…」急に嵐の様相となりカッパも役立ちません。「こらあかん、片づけよか~」未練がましく港内を見つめていたら、いきなり家人が私の背中を叩きました。「なんじゃい~」と彼女を見ると顔面蒼白。指さす方向を見ると…

「ひぇ~」なんと波が高い防潮堤を乗り越え、ざぶりざぶりと車を洗っているではありませんか。海水がケーソンの上を川のように流れていきます。「嘘やろ!」いまいる所から車まで少し距離があります。これ以上この場にとどまると帰れなくなりそうですし、車もぐらりぐらりと揺れ、いまにも押し流されそうな雰囲気です。

「てっしゅぅうう~\(>_<)/」

この時の片づけの速さは、おそらく釣り人生最短の速さだったと思います。「エンストするなよ~」海水を頭からかぶりつつ、川になった波止の上を恐る恐る車をバックさせながら、私はつくづく思いました「海をなめたらあかん…」

尾鷲湾沖の寺島のお話

三重県尾鷲といえば、近畿有数の磯釣り場としてご存じの方も多いかと思います。釣り場が広大で、季節風からは風裏となるため、例年数々のトーナメント会場になります。ここの湾入り口に沖の寺島という一級ポイントがあります。小山ほどの大きな独立磯で関西では珍しく尾長グレが回遊するので、上物師に人気のある磯です。さてある年のことです。寺島は外洋のうねりの影響を受けるため、荒れた日は渡礁できないのですが、その日はたまたま風もない釣り日和で、私は10人ほどの上物師底物師と一緒に上がることができました。足元からドン深で何やら期待感の持てるポイントです。

さて渡船から上がるときに前面にそびえる磯を見ると、中腹まで濡れた後があります。つまりそこまでうねりが上がったと云うことです。高さにして7、8mぐらいでしょうか、大きいうねりの後です。それまでさんざん怖い目にあっていましたから、私は濡れた岩場より少し上の高台に釣り座を取りました。このぐらいの高さになると屋上から釣りをするようなもので、メリットといえばウキがよく飛ぶことぐらい~まるで面白くありません。若い人達はさすがにフットワークがいいので、もっと下の方に釣り座を取り、わいわいと釣り始めています。海は凪いでいます。しかしうねりは100回に1回中波、1000回に1回大波が来ると云われています。確かにその通りで、凪日和にも関わらず慌てた経験は何回もあり、骨身に沁みています。

釣り初めて1時間位した頃でしょうか。ウキを見つめていたら、何やら嫌な予感がしました。「うん?」と思った途端、海面がどんどん下がり始め…「ごごごぉ~」地響きのような海鳴りの音です。

「てっしゅぅうう~\(>_<)/」

肥満体にむち打ち、えんやらとバッカンと竿を持って上に逃げ出したときには、腰まで波が来ていました。うねりは来るのも速いですが、引くのも速いもの。沖を見ると引き波に二人さらわれ、色とりどりのバッカンやクーラーが波間にぷかぷか浮いています。すぐに見回りの渡船がやって来たので、大したことはありませんでしたが、よその磯でも二人流され、一人は大けがで病院に運ばれたとのこと。本当に海ではライフジャケットは必需品です。この日も私は思いました「海をなめたらあかん…」

恐いと危険は違う…

磯では恐い思いをした想い出はたくさんあります。書き始めると切りがないくらいです。そういう意味では、波止で恐かったことなどあまりありません。磯は外洋に直接面しています。波止のように波浪を遮断するものはありませんから、直接海の波浪と対峙するわけです。しかし私は波止の方が危険だと思っています。磯は初心者といえども、すぐに自然の力というものを教訓的に覚えます。渡船屋は荒れると思ったら、まず船を出しません。少なくともプロの方が釣人より海に対しては慎重です。まっとうな釣人でしたら、安全装備も一通り揃えます。ですから傍目で見るよりは安全なのです。むしろ本当に危険なのは波止釣りです。

波止は足場が比較的安全、外洋のうねりが入らないと云うだけでやはり海です。ルールを守らないとかえって危険です。特に立ち入り禁止になっている所、それも足場の悪いところで、毎年何人もの釣人が死亡事故を起こしています。その殆どが夜釣りです。落ちたらまず誰も気づきませんし、はい上がろうにもつかめる所がなく、垂直護岸ならまず上れません。当然ライフジャケットなど着けていませんから、潮の速いところならそのままお陀仏です。

右の写真は、おそらく釣りの人身事故日本一と思われる「鹿島港南堤」の作業用通用門に取り付けられている看板です。なんと71人(2018年現在)という人命が失われています。信じられません。実際はこれ以上の遭難者が出ているという話です。神戸でも以前はポーアイの高い防潮堤から、転落死する釣人が毎年後を絶たず、警察が深夜見回りをしていたものです。

悲しいことではありますが、あまりにも軽率な行動を取りすぎた報いではないでしょうか。残された家族のことを考えるとやりきれません。それほどまでに釣果を追い求めるのならば、より釣果を望める沖釣りや海上釣堀にチャレンジするべきです。波止釣りのよさはいつでも気軽手軽にやれるということです。命を懸けてやるほどの遊びではありません。

怖く感じないから危険ではないという考え方は捨てましょう。恐いと危険は違うということを、呉々も肝に銘じておいて下さい。釣り場の多い地方では「釣りの事故よりも、釣りから帰る途中の居眠り運転の死亡事故が多い」といわれています。危険とは目に見えるようなものではなく、釣りへの妄執や心の中の油断が生み出すものだと思います。くれぐれも皆さんお気をつけて下さい。今日は固いお話でした。

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