海と魚のお話

海と魚のお話

海難事故を考える

釣りは手軽で楽しいレジャーとたいていの人は考えておられるでしょう。実際たいていのケースでは、お手軽なレジャーなのですが、自然の脅威をもっとも身近に感じることが多いのも、釣りの舞台である海なのです。波止釣りしかしない人は、脅威といってもピンとこないかもしれませんが、磯釣りや沖釣りでは、天候次第では、命に関わる状況に出くわすことは珍しくありません。

安全そうな波止釣りでも、実際毎年何人もの人が亡くなっています。今日は海難事故のデータから教訓を読みとり、事故に備える心構えを養いましょう。「ライフジャケットは命綱」も参考にして下さい。

釣りは事故がとても多いレジャー

まず平成15年度の海難事故の実態をご説明しましょう。資料は(財)日本海洋レジャー安全振興協会です。

  1. 遊泳中
    事故者は、238人で、このうち104人が死亡・行方不明となっている。前年と比べ事故者は111人、死亡・行方不明者は44人減少している。
  2. 釣り中
    事故者は、225人で、このうち94人が死亡・行方不明となっている。前年と比べ事故者は74人減少、死亡・行方不明者は31人減少している。
  3. サーフィン中
    事故者は、100人で、このうち6人が死亡・行方不明となっている。前年と比べ事故者は9人、死亡・行方不明者は4人減少している。
  4. ボードセーリング中
    事故者は24人で、このうち2人が死亡・行方不明となっている。前年と比べ事故者は1人減少、死亡・行方不明者は2人増加している。
  5. スキューバダイビング中
    事故者は53人で、このうち23人が死亡・行方不明となっている。前年に比べ事故者は29人増加、死亡・行方不明者は12人増加している。
  6. その他
    その他(磯遊び中、ウェイクボード中等)の事故者は、100人で、このうち31人が死亡・行方不明となっている。前年に比べ事故者は57人減少し、死亡・行方不明者は8人減少している。

なんと釣りの事故が多いことか…
もっともレジャー参加人口の多い遊泳中の一番は分かるとしても、その数字と殆ど変わらないのが、釣り中の海難事故です。また他のレジャーと較べても、死亡率の高いことがお分かりかと思います。次に釣りにおける事故の状況・要因をみてみましょう。

  1. 釣り事故の世代構成
    事故者は、60歳以上が71人(32%)、50歳台が55人(24%)、40歳代が39人(17%)と、これらで全体の約7割を占めており、中高年齢層が多くなっている。
  2. 釣り事故の原因
    転倒した者が83人(37%)と最も多く、次いで、孤立したものが54人(24%)、波に引き込まれたものが52人(23%)となっており、これらの形態が全体の約8割を占めている。
  3. 釣り事故の発生状況
    気象・海象不注意によるものが72人(32%)と最も多く、次いで、周辺環境に対する不注意によるものが54人(24%)、実施中の活動に対する不注意によるものが51人(23%)等となっている。
  4. ライフジャケット着否別の発生状況
    平成15年における釣り中の事故者225人のうち、ライフジャケットを着用していた者は56人(着用率25%)で、このうち死亡・行方不明者は13人、死亡率(死亡・行方不明者の事故者に対する割合、以下同じ)は23%であった。 一方、ライフジャケットを着用していなかった者は169人であり、このうち死亡・行方不明者は81人、死亡率は48%で、ライフジャケット着用の効果が顕著に表れている。

教訓を学ぼう…

賢明な読者ならば、データから教訓を得られたことでしょう。意外な数字もあります。ちょっとまとめてみましょう。

ベテランほど事故が多い…
交通事故と反対ですね。一見不思議ですが、要因を考えてみると、初心者ほど専門的な釣りに遠く、ベテランほど専門的(アウトドア的要素が高い)な釣りに参加しているということでしょう。つまり磯釣り・沖釣りなど、危険な要素の多い釣りに参加しているということになります。しかし「ベテランなら海の危険を充分に分かっているはずでは?」と思われる方も多いはず。残念ながら、筆者の経験ではベテランほど「この天気やったら船出せるやろ!」という無茶な人が多いのです。いわゆる場慣れが過ぎて、海をなめているのですね。

転倒事故…
うねりのあるときの磯では、転倒は即海難事故につながります。くじく程度ならいいのですが、落水すると大けがはもちろんのこと、引き波にさらわれるとあっという間に、沖に運ばれます。多少の泳ぎ自慢でも、荒れた海には歯が立ちません。救助が送れると、体温の急激な低下で衰弱死は免れません。ベテランの場合は、年齢に伴う足腰の弱さ転倒事故の多さにつながっているのでしょう。ポイントもさることながら、安全な足場の確保は磯釣り師の心得です。

状況判断の甘さ…
気象・海象の不注意は即事故につながります。風が吹くと海は荒れます。海に馴れてくると、肌に当たる風の微妙な変化でも、やがて変わるであろう天気の様相は感じ取れるものです。高いところへ足場を変えたり、うねりの来そうな場所から移動したり、荷物を早いめに片づけたり、安全対策は手早くする必要があります。もっとも大事なことは天気予報をよく見て、自分なりの基準を立て、無理な釣行をしないことです。筆者の場合なら、明日の天気予報を見て、波高2.5mを一つの目安にしていました。それ以上なら沖磯は無理ということです。場所によってはやれるところもありますが、この場合は風向きを確かめます。このようにベテランになれば、たいていはハウツーを持っているのですが、土日しか休みを取れない辛さもあるので、逆にぎりぎりの釣行をするケースが多いのです。

孤立の危険…
これは釣り人にすべて責を帰すというわけにはいきません。磯ならば磯渡しをする渡船屋の責任だからです。筆者が通った磯でも、心配性の渡船屋ならば、しょっちゅう見回りに来ますし、荒れそうだと目の届くところで天候の急変に備えています。しかし横着な渡船屋だと、客は磯に上げ放し、自分は家に帰って寝るか、パチンコというのも珍しくないのです。これでは天候の急変に対応できず、釣り人は磯に置き去り、逃げるに逃げられないという悲惨な状況に遭遇します。

筆者の経験でも、後数分、撤収が遅かったらお陀仏ということが、何回かありました。幸い、渡船屋が急いで撤収に来てくれたからよかったようなものの、いい加減な渡船屋では、海の藻屑です。現実にそのようなケースで、年に何人もの人が亡くなっています。気に入った釣り場なら、通わざるを得ませんが、天気の加減と渡船屋のよしあしを秤に掛けておくことも大事です。

ライフジャケットは命綱…
いうまでもありません。データが実証しています。死にたくなかったら磯・沖の一文字・沖釣りではライフジャケットを必ず着用して下さい。プレージャーボートの事故が急増していることからおわかりのように、遊漁船でも転覆事故で過去、多数の人が遭難しています。「船頭が乗っている船だから」などと思って、油断しないこと。事故は油断から生まれるのです。自分の身は自分で守りましょう。