海と魚のお話

海と魚のお話

ルーツ・釣りの神様

「ふふふ〜今日は釣りの神様が味方してくれたよ♪」など、いとも気安く釣り人は神様を引き合いに出します。おそらくこれほど、庶民に親しまれている神様はいないのではないでしょうか。古来、日本には八百万(やおよろず)の神様がいるとされていました。もちろん釣りの神様もその一員です。釣り人ならば、神様をありがたく祭りましょう。今日は釣りの神様○○名人ではなく、本物の?神様のお話。

釣りの神様は恵比寿様だよ

縁起のよい福の神様を7人集めて絵にしたのが、ご存じ「七福神」です。その中で竿と鯛を持って笑っている恰幅のよい神様がいますね。その神様が、七人の中では唯一国産とされている神様、恵比寿(ゑびす)様です。福々しい笑い顔をえびす顔というぐらいで、打ち出の小槌を持った大黒様と並んで人気があります。他の神様は中国やインドからの拝借です。日本人は昔から外来文化が大好き(笑) 

恵比寿様は、上方ではもっと気軽に「えべっさん」と呼ばれており、庶民には一番もてる神様です。兵庫県西宮にある西宮神社は、全国の恵比寿神の総本家で、毎年1月恒例の十日戎には、百万人を集める人出で賑わいます。釣り人が百万人集まるわけではありません。恵比寿様は関西では釣りの神様としてより、商売繁盛の神様として人気があるのです。ちなみに関東では「えべっさん」はいまひとつ人気がなく、商売繁盛となれば関東の方なら、よくご存じ酉の市で祭られる日本武尊(ヤマトタケルノミコト)です。関東人と関西人の気質の違いが、何となく分かるようで面白いですね。

その出生の謎?

さて、庶民に人気のある恵比寿様のルーツを探ってみましょう。恵比寿さまは、右手に釣竿、左手に鯛を抱えています。お姿から分かるように、元々は海の神様、豊漁の神さまだったのですが、実は恵比寿様のルーツには諸説があります。

神道では、恵比寿さまはイザナギノミコトとイザナミノミコト(日本国を作ったカップルの神様ね)の第三子蛭子尊(ひるこのみこと)といわれています。古事記日本書紀に出てくる蛭子という漢字にエビスが当てられているのが、その根拠だそうです。恵比寿様はなんと3歳まで足が立たず、それを理由に船に乗せて捨てられ(モーゼだわ〜漂着先が神戸の西宮浜)、おまけに福耳のくせに難聴という苦労人です。顔で笑って心で泣く釣り師には本当によき模範となる神様です(T_T)

もう一つの説は、大国主命(おおくにぬしのみこと)の第一皇子事代主命(ことしろぬしのみこと)と云う説です。長くなるので詳しい話は省きますが、神話に出てくる出雲の国譲りをした神様で有名です。この大事なときに、事代主命は美保ヶ関に釣りに行ったという釣り馬鹿で、それが後生、釣竿を持ち鯛を抱えるイメージにつながったという話もあります。困ったものですね。

最後の説は、私たちもよく知っている海彦山彦です。山幸彦(ひこほほでのみこと)は、兄である海幸彦の釣り鈎をうっかり鯛にとられて竜宮に行きます。そこで海神のべっぴん娘、豊玉媛命とラブラブになりマジックパワーを得ます。そして最後に、兄の海幸彦を服従させるというお話は、子供の時聞かされましたね。ちょっと兄貴が可哀想な気がしないでもありません。師匠の鈎をなくした弟子が、怒られたのを腹いせに仕返しするというのは、釣り師の風上に置けない不届きものです(笑)

三説とも、それぞれ根拠?があるわけですが、いわゆる出雲の国譲りが神話という形を取っていても、実際は大和朝廷と出雲政権との権力闘争を暗示した記述であるということは、大方の学者が認めているところです。大臣であるにもかかわらず、政務を放り出し、釣り三昧に明け暮れた事代主命(ことしろぬしのみこと)が、実在のモデルなら本当に楽しいですね。釣り馬鹿日誌神武編というところでしょうか〜私はこの説を押したい(笑)

出世の階段を上った神様?

七福神の中で、恵比寿様は唯一国産の神様だと書きました。ちなみに大黒様は古代インドのシヴァ神、弁財天も同じくサラスバティーという河の神様、毘沙門天はヒンドゥーのヤシャ王クヴェーラ、寿老人は中国の思想家老子、布袋尊は後梁時代の禅僧契此(かいし)、福禄寿は中国伝説上の道士とされています。う〜ん、大昔から日本人はインポートが好きなのですねぇ(汗)

ところで恵比寿には夷や戎という字が当てられます。夷という漢字は大きく脚を拡げて、弓を引くという意味があります。つまり古代中国では、東方の弓を引く異民族という意味なのです。また戎も、戈(ほこ)と鎧(よろい)という意味で、古代中国西方の異民族のことです。私たちの祖先は、もともと異民族を表すエビスという和語に、戎や夷という外来漢字を当てたわけです。ですから、国産神と云いつつ本当は外来神、漂着神という説もあります。

鮫や鯨、イルカに追われて、魚の大群が海辺に押し寄せられることがあります。漁民にとって彼らは豊漁を呼ぶ存在です。遠方より出でて豊漁をもたらすものを、漁民達はエビスと呼び、神として信仰していました。こういった民間信仰も、エビスという言葉が定着した要因かも知れませんね。いずれにせよ、元々恵比寿様は豊漁をもたらす神様でした。それが、いつの頃から商売繁盛の神様になったのでしょうか。

中世以降、商業の発達と共に海運も盛んになりました。港は船の出入りによって商売が繁昌するので、航海安全は市場の繁栄につながります。海の幸をもたらす漁民達の「寄り神」としてスタートして、中世には航海の守護神、市場の守護神、近世には大阪・堺を中心に、商売の神様と格が上がり、ついには海だけではなく、農業振興、喜結良縁、敬愛富財というオールマイティな神様になったわけです。当然、釣りの神様と呼んで悪いわけはありません(笑)

恵比寿さんは残念ながら、国家の保護を受けていない格の低い神とされています。国家イコール江戸、東京だからと思いますが、判官びいきの関西人にはそこらへんも受ける理由の一つかも知れません。 釣りトーナメントの圧倒的西高東低は、技術以前に恵比寿様の御利益があるのかも(大笑)

ところで純粋に海の神様といえば、イザナキノミコトとイザナミノミコトが8番目に生んだ大綿津見神(オオワタツミノカミ)です。山幸彦の奥さん豊玉媛命のパパです。明治の天才画家青木繁の傑作「わだつみのいろこの宮」をご存じの方もおられるでしょう。あの画題の舞台、竜宮城のオーナーです(^^)b

可愛い素材はIPプラザさんとinfoseekお正月さんの素材より