笑魚のB級コラム

B級コラム

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馬立島味噌汁事件

前回、舞鶴田井での地磯釣行のお話を書いた。福井側に位置する音海では相性がいいのか、毎回釣果に恵まれたのだが、京都側の舞鶴田井では不思議と釣果に恵まれていない。結構通ったのだが、ボウズが多かった。この近くの野原では結構釣っているのだが…理由はよく分からないが、棒ウキにサナギを主体とする若狭の釣りに馴染めず、オーソドックスなフカセ釣りにこだわったのが敗因かも知れない。それでも、ここは船頭さんが親切で(女将さんの作る弁当が美味しい)、何より景色が本当に美しいところだから、釣果に恵まれずとも、とてもよい釣りの時間を過ごさせてもらったような気がする。滅多に昼寝などしないのだが、ここでは磯の上で寝込んでしまい、船頭さんに起こされたこともある(笑)

さてある年の暑い夏のこと、いきなりちゃりこが石鯛を釣ると云いだした。石鯛など幻の魚と云うぐらいで、そう簡単に釣れるものでない。大体、底物師と一緒に磯に上がって、彼らが石鯛を釣り上げたのは見たことがないぐらいだ。それぐらい確率が低い。ただフカセ釣りのオキアミに食い付いてきた石鯛は目撃しているし、私自身フカセでけっこう釣っている。しかし銀ワサと呼ばれるようなサイズは、やはり無理だ。グルメな魚だから餌も高くつく。そこでしばし考えて、日本海でやろうということにした。関西ならば南紀から紀東が底物の本場だが、日本海でもやれる。兵庫県の三尾から浜坂辺りでは結構底物師がいるし、餌屋で立派な魚拓を見たこともある。若狭でも昔は音海や舞鶴田井で底物師が上がっていたようだ。ここはと思うようなポイントには、足元にピトンの穴があったりするから分かる。そこで古いポイント図を調べたところ、やはり○○は底物狙いなどいう記述がある。「よっしゃぁ!今週は田井で石鯛やぁ〜〜」

日本海で底物狙いは馬糞ウニが主力の餌になる。予約を入れておくと用意してくれるらしいが、そこまで本格的にやることもなかろうと、少し考えた末に、ちゃりこ用にマムシを使うことにした。マムシは餌持ちは悪いが石鯛向きの特効餌だし、他魚のお土産も期待できる。神戸で買っていけば安く上がる。仕掛はシンプルなブッコミ仕掛けとちゃりこ向きだ。もちろんウキ釣り師の私は、年中上物仕掛けだ。

夏場はぐんと釣り客が減る。釣り物が少ないからだ。船着きでも私たち以外に数組しか見かけない。反面、サザエ取りをしたりバーベキューで遊ぶ磯遊びの団体客が多くなる。釣り客の方が朝は早いので、まず私たちが陽の上がっていない真っ暗な海に乗り出した。今日は底物狙いを考え、沖に位置する毛島をめざす。本当は毛島の先端に位置する大グリ小グリという若狭を代表する名礁に上がりたいのだが、ここは渡船割りがある上に予約なので、滅多に上がれない。その日は毛島の6番にあがる。足元が広くて釣りよいところだ。ちゃりこは気合いを入れて、ガツンガツンとハンマーでピトンを磯に打ち込んでいる。

やがて陽が上がってきたが、潮の動きが悪い。若狭名物のエサ取りが何層にもマキエを取り囲む。「あぁ、今日は釣りにならんな〜」季節外れのマダイをさっさと諦め、こっぱグレや小アジと遊ぶことにする。今日の主人公ちゃりこもエサ取りに苦戦している。やはりマムシでは餌が瞬間的になくなるようだ。「はぁ〜セオリーは守らなあかんな〜」 夏の磯は暑い。日が高く昇る頃には集中力も切れる。風がないので暑さもひとしおだ。ライフジャケットを脱ぎ、氷水を飲む。自分の釣りを諦め、ちゃりこの釣りを見物する。どうやら餌がなくなったらしい。予備の青虫を鈎に付けている。時計を見ると、そろそろ磯上がりする時間だ。「ちぇすとぉぉ〜〜最後の一投〜〜〜」ちゃりこの気合いが、空しく海にこだました。(写真はまさに毛島の6番、後ろに名礁大グリ小グリが見える)

気合いとは裏腹に、オモリはひょろひょろと沖に飛んでゆく、結果は分かっているので荷物の片づけを始めていると、いきなり絶叫が・・・・・・
「やったぁ〜〜〜」
裏返った声に驚き振り向くと、ちゃりこが竿を立て、しゃにむにリールを巻いている。しばらくすると、 なんと白黒縞模様の魚が上がってきた。
「ほほほ♪♪♪石鯛!石鯛!」
確かに型は小さいが立派な石鯛ではあった。
「青虫で釣るか・・・・」

まぁ、まずは狙いの魚をゲットして、その日の釣りも平和に終わり、正午に港へ帰る船に乗り込んだ。「ふふふ・・・・♪」
ちゃりこは締まらない顔をしてほくそ笑んでいる。
「あのなぁ〜わしが作戦を立てて釣らせてやったということを、忘れたらあかんよ」
「そやね〜ほほほ♪あんたは釣れなかったね、ふふふのふ♪」
「・・・・・」
この時、帰り道で大事件に遭遇するとは、脳天気な二人には知るよしもなかった。

船は港に帰る釣り客達を拾ってゆく。毛島の客を拾い終わり、馬立島に向かった。ここでは釣り客はおらず、みんな磯遊びの客である。彼らは夕方までいるので、本来船はそのまま港へ直行するのだが、どうやら場所替えをしたいと、グループのリーダーが申し入れたらしい。サザエやキャンプ道具を持った連中が乗り込んできた。水着姿の女性も居るので目の保養だ。大人数のグループらしく、次のポイントでも、またメンバーを数人拾った。ここでは食事の用意をしていたらしい。食料や荷物ごと人が乗り込んでくるから、小さい渡船は大混雑だ。船着きを見ると、最後に大鍋を担いだ若い男性が、よたよたとこちらに向かってくる。

どうやらみんなのために、味噌汁を作っていたらしい。いい匂いがしてくる。彼は鍋を左右の手で持って、そろりそろりと船に乗り込んだ。へっぴり腰だ。重いのだろう。「大きい鍋やな〜気いつけんと危ないぞぉ〜」などと思っていたら、いきなり蹴つまづいたのである!なんと鍋をもったまま、混雑する人と荷物の中へ大ジャンプ!

「どひゃぁ〜〜!」

大鍋一杯の味噌汁がそこらに飛んだから、さぁ大変!豆腐やネギ、揚げのかけらが、各自の荷物、竿ケース、ライフジャケットに飛び散る。近くに居た釣り師は、背中からばっさりやられたから、ライフジャケットが豆腐まみれで、おまけに湯気が立っている。管理人の被害はクーラーだから洗えば済むが、服やズボン、布製の竿ケースをやられた連中は悲惨である。幸い熱湯ではなく怪我人は出なかったが、そこら中味噌汁の残骸が飛び散り大変な騒ぎになった。事件の張本人は船底でひっくりかえって味噌汁だらけ、もう半泣きである。あまりの哀れな姿に、みんな腹が立つより同情してしまった。

船上で味噌汁を頭から掛けられるような経験は滅多にないことなので、この記憶はとても鮮明だ。あの時この時、釣りには色々楽しい想い出があるが、この味噌汁事件だけは格別で、思い出すたびにちゃりこと二人して笑っている。