笑魚のB級コラム

B級コラム

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釣りきる集中力

今日「本日のTIPS」を書いていて、ふと思い起こしたことがあったので、忘れないうちにB級コラムに書き留めておくことにした。TIPSに書いた概要は「釣りは科学・洞察・技術がものをいう、そのうち技術は体で覚えるものだから云々・・」という下りだった。発展途上のビギナー向けには分かりやすい言葉だと思う。

しかし競技会常連のようなレベルに到達したベテランになれば、場数はもちろん修羅場も山ほどくぐっている。技術論などしゃべらせたら何日でもしゃべり続けているだろう。つまりA級釣り師になると、もはや技術論を超越した段階にあるといっていい。もちろん全国レベルの名人でも、日々研鑽は積んでいる〜しかしこれは既に自分の釣りというものが確立していて、新しい技術、考え方をスパイスとして振りかけているに過ぎないと思う。

では彼らのレベルに到達すると、何を持って釣りの基準とするのだろう。それはずばり、確信、インスピレーション、集中力である。要はマインドコントロールだ。ゴルフトーナメントでタイガー・ウッズと一緒にラウンドしたプロが脱帽するのは、そのパワー・技術もさることながら、類い希な集中力らしい。自分の力を100%出し切るというのは、プロでも至難なことだ。恐らくタイガー・ウッズは99.9%出せるのだと思う。

僕には特に手取り足取り教えてもらった師匠と呼ぶ存在はいない。大体が理屈が多く生意気な方なので、師匠筋から敬遠されるのだろう。しかしよく一緒に釣り場に通い、何かと釣り談義、アドバイスを受けた人はいる。仮にこの人をS氏と呼ぼう。超一流とまではいえないが、かなり名の通った名手だ。この人とは本当によく釣り場に通った。一緒に走った距離は地球半周ぐらいになるかもしれない。年長でもあり、やはりこの人を師匠と呼びたい。

S氏は大きなトーナメントを制したこともある名手だ。しかし一緒に並んで釣ると、特に上手な釣り師に見えない。颯爽とした竿さばきを見せてくれるトーナメンターと比較すると、むしろ不器用に見えるぐらいだ。攻め方もポリシーがない。確かなポイント選びと、トーナメントで鍛え抜かれた技で、フカセ釣りの神髄を見せてくれるかと思いきや、だらしなく人のポイントにウキを投げ込んだり、マキエをそこら中撒き散らかしたりする行儀の悪い釣り人だ。

というようなわけで、初めのうちは「トーナメンターもたいしたことはないなぁ〜。こりゃわしの方が大分上やでぇ〜」などと、なめてかかっていたが、半年ばかり一緒に釣行してみて、歯が立たないということに気がついた。釣るのである。もちろんダメなときもあるのだが、通算すると、釣り自慢がゴロゴロいる中でも、ずば抜けた成績を残している。僕自身の対戦成績でいうと、勝率3割ぐらいだろうか。かなりの差だ。「ふ〜ん、どこが違うのかな?」と、なめてかかっていたS氏の釣りを、再度注意深く観察するようにしたのだ。

何回か横目でず〜と観察した。しかし、どう見ても僕の方が気の利いた釣りをしている。つまり技では負ける気がしないのだ。再び下した結論は、もはや技ではなく、精神力、集中力の差という事実だった。釣り人ならお分かりだろうが、1日数時間以上集中力を持続させるというのは、大変な困難だ。だから太陽の昇り具合や、潮、エサ取りの動きを判断して、集中力に緊張と弛緩のリズムを作って釣りをしている。そうでないと、釣り続けることが苦痛になる。もちろん朝からエサ取り一匹いないような淋しいすぎるときには、ベテランといえ集中力が切れるのは、初心者と何ら変わらない。集中力がとぎれると、途端に釣りが荒くなる。アタリを見逃すようなことはないが、釣りそのものが大ざっぱになるのだ。魚と出会うであろう確率を大きく下げることになる。

このS氏の凄さは集中力がとぎれないのだ。眼から出る光線が水面下をスキャナーし続けている。釣り場に着いたときのテンションを、渡船が迎えに来るまで保ち続けている。だから腰を下ろす、よそ見をする、ゆっくり弁当を楽しむ、人の釣りを観察するということはない。ただひたすら、魚を追い求めて海面を凝視し続ける。僕が何故始めに気がつかなかったいうと、彼はごそごそ落ちつきなく動き回るのだ。およそ釣り座に端座しアタリを待つという名人らしさがないのだ。このせわしない素人臭い動きにだまされていた。人の観察をしないと書いたばかりだが、実はこれも後で本人から聞いて分かったのだが、相手の動きがわかったら、先手先手を取るような釣りを心がけるということだった。あぁ人は見かけによらない。

名手の釣りは、セオリーに囚われない柔軟さ・類い希なる集中力ということを、Sさんは僕に教えてくれた。以来年月が経った。僕も集中力を持続させるべく釣り場では心を練っている。しかし根が器用貧乏だから、釣れないとなると精神を集中させるより、あれやこれやと手持ちのカードをばらまくような釣りばかりしている(笑)