笑魚のB級コラム

B級コラム

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ときめきの釣り道具考2

釣り師にとって、ショーウィンドに並べられた釣り道具ほど、胸をときめかすものはないだろう。前回はときめきを誘う道具達のあれこれを書くはずだったが、つい年寄りの説教めいたものになったので、最近面白かったことを改めて書いてみることにした。

T氏が惚れたステラ

当道場の熱心な読者なら、T氏と云えば泣く子も笑うあの新興宗教の教祖であることに、ピンと気がつかれるだろう。20年以上の釣り歴を誇るも、釣りものはルアー、ハゼのみ、ボウズ連続記録28回など、いわくいいがたい釣りキャリアの持ち主である。決して奇人変人でないことは、書く文章に機知と学識が垣間見えることからも明らかだが、まぁ風流な人物であることは確かである。未完の大器ともいうべき彼の釣り心に、我が海釣り道場がどのような役割を果たしたか、それは定かではないが、ある日彼は開眼したらしい。10年以上糸すら巻き替えなかった男が、なんと釣り道具に興味を持ったのである。

まずは和竿のオーダーである。常連の読者なら、彼がここへ至ったいきさつはよくご存じだろう。掛かった費用は最高級中通し竿に匹敵するはず。ここらは趣味嗜好の世界だから、評価は控える。刀鍛冶だったという祖父のDNAは間違いなく継承しているらしい。作務衣が釣りファッションというライフスタイルからも、当然の帰結である。むしろ意外だったのは、次の買い物ステラである。別注和竿に添える高級太鼓リールではなく、あのステラを衝動買いしてしまったということに私は興味を強く惹かれた。曰く「皆が最高というものをこの手で触ってみて、どのようなものか確信してみたかった」というのがその理由である。道具へのこだわりでも撞着でもない言葉に、う〜んと絶句した。

僕は若い頃に、背伸びしてオーディオやカメラに凝ったことがあるので、釣り道具は眼を剥くほど金のかかる道楽だとは思っていない。しかし所帯持ちにとって、釣り道具はそう安い買い物ではないし、釣り人ならば誰しも価格=釣果でないということを知っているだけに、思い切った投資はしにくいものだ。彼の確かめたかった、知りたかったという言葉には、妥協を嫌う潔さ以前に、いつも眼を丸くしていた少年の日の好奇心がある。男にしか分からない道具学だろう。

ステラ…シマノが世界に誇る釣り師垂涎のリールである。何にでも屁理屈を言わねば気に入らない笑魚も、このリールの凄さには脱帽する。欧米メーカーの技術屋ならば、アイデアやアイデンティティのレベルが高いので、本気になればもっと凄いものを作るだろう。ステラはそういったものとは違う。アイデアで勝負していないのだ。ホンダのF1エンジンと同じで、ひたすら日本人としての感性、精緻の極限を追求している。日本刀の研ぎ澄まされた青光りに通ずるものがある。スペックという枠を超えた西陣、漆などの伝統工芸にも見られる精神だ。美術品といってもいいかもしれない。こういったものを、小遣いを貯めて簡単に買えてしまう少年達には、貧乏世代のこのスノビズムは分からんやろな(笑)

カメラに凝っている頃、M社のレンズが好きで(フォーカスが甘く、発色が好み)長らく使っていた。ナンバーワンメーカーのN社は画質が固く、いわゆるプロ御用達への反撥もあって毛嫌いしていた。そんなある日、カメラ雑誌の記事で、メーカー技術者に問うといった特集を眼にした。編集部がN社技術陣に対して、ライバル各社より製品のアドバンテージがないという手厳しい質疑を投げかけているのである。技術者の答えはうむ!と云わせるものだった。

「我が社の製品は零下何十度の南極、あるいは極暑のサハラ砂漠でも、支障なく動作することを前提に設計製作されております。あらゆるフィールドで検証されたお言葉でない限り、当社としてはその見解を受け入れることはできません」 戦後の日本復興をリードしてきた技術屋の意地だろう。この記事を読んでから既に30年近く経っているが、いまだに忘れられない言葉だ。いまの日本メーカーには聞かれない言葉だろう。すでにアジア隣国に追いつかれつつある日本だが、ステラにはなんとなくこんな意地が見える。名入れなどで消費者におもねくのではなく、本質的な精神でいつまでも大事にして欲しい商品だ。

G氏の道具選び

あまりマニアックな話題ばかりではどうかと思うので、リールの話ついでに、最近LBを買ったGさんの話も書きたい。特に勧めている訳でもないが、僕は元々磯釣り師だからLBのことも少なからず、記事に取り上げている。これが影響にしたのかどうか知らないが、波止師のG氏がダイワの型落ちを入手した。型落ちといっても元が高価な商品だから、安い買い物ではないし、マイナーチェンジレベルだから、性能に差があるわけでもない。Gさんはフルモデルチェンジした新型シマノBBXも候補に入れて検討した結果、実際触ってみて使い勝手を確認した上で、ダイワにしたという。実は、少し前に竿とLBを新調した磯釣り師のSさんからも、比較検討の結果ダイワにしたという報告があった。

この二人の報告を聞いてみて、僕はまだ発展途上の釣り人としては、なかなかシビアな選択をしたなと感心した。LBのように、使い勝手が判断しやすい道具だったせいもあるのかもしれないが、リールはやはりシマノが頭一つ評価が上であることは事実で、ショーケースの中でも、仕上に凝っている分よく目立つ。にも関わらず、彼らはダイワを選択した。理由はただ一つ、これなら使えると思ったのだろう。この感覚が釣り道具にはとても大事だ。パソコンのマウスと同じで、ピッタリ来ないとやはり使いこなせないものだ。肝心の特許の部分をダイワ(orRYOBI)に押さえられているのか〜ずいぶん改良されたとはいえ、シマノのLBの操作性はダイワの分かりやすさには勝てない。慣れの範疇なのだが、始めて使う人間には大きな差だ。LBのシェアにあぐらをかき、抜本的な改良を怠った報いともいえる。

一般的な市場評価や記事にだけとらわれることなく、自分の眼に選択を委ねたのはいいことだと思う。パソコンのようにブラックボックスならば、まず先達のアドバイスに従うべきだが、一日中自分の手の延長で使う道具は、なにより自分の感性を信じるべきだ。二人は間違いのない選択をしたし、なにより道具は期待に応えてくれるだろう。ついでにいうと、Gさんは竿もいい買い物をしたと思う。外ガイド5m1号チヌ調子というのは、波止のウキ釣りではベストなスペックだ。ガイドも絡みにくい多点仕様である。30cm短いのがとても賢い選択で、一日中手持ちでも疲れず、固定のウキ下も充分とれる(これは使ったものでないと分からないだろう)。最近では珍しいチヌ調子だが、最新のカーボンだから腰もしっかりしているはず。号数もベストだ。最新の1号は昔の2号近い強靱さを持つ。メバルから大スズキまで、およそこれ1本でなんでも間に合うだろう。リールもやり取りを楽しめるLBを格安で手に入れた。T氏のような贅沢な選択ではなかったかも知れないが、実釣を見据えた、これも心ときめく道具選びだったろう。

付録「LB道具学」

ついでにLBを誤解されている人が多いので、一言書いておこう。LBは元々グレの強引に対抗して作られたリールだ。グレは太ハリスを嫌うので、この合理的な日本オリジナルはあっという間に、磯では標準リールになった。波止でも効用があることは別章に書いてあるから、それを参考にして頂きたい。ドラグ式との一番大きな違いは、車で例えるとマニュアルとオートマチックの違いと考えてもらえればよい。大きな魚が釣れないからLBは不要と云う人がいるが、これは使ったことがない人の認識でしかない。本当にでかい魚はドラグで止める方が速く捕れるのだから。

正味の初心者には使いこなせないだろう。やはりそれなりのトレーニングが少し必要だ。トレーニングの仕方については、そのうち上級編にでも書こう。LBに馴れると、ちょっと竿をさばける人なら、ドラグに戻るのが面倒になるはずだ。中級者以上なら分かると思うが、ドラグは弱いラインになるほど、最適に調整してこそ威力を発揮する。最高と云われるステラでも事情は同じこと、この最適に調整するのがやっかいなのだ。またある程度以上の高級品にならないと、ドラグはスムーズでない。竿の角度、曲がりでも滑り方は変わるから、ますますやっかいである。

太鼓リールにドラグが装備されないのは、LBと同じく最高のドラグを、人間の指先が果たしてくれるからである。だから太鼓にドラグをつけようなどと、馬鹿なことは誰も考えない(ディスクドラグ付きもあるが、余計なお世話というべきだろう)。LBは、この太鼓リールに遠投性能を付け足したものと考えれば分かりやすい。注意して観察して貰うと分かるが、竿の角度こそ違うが、落とし込みと磯釣りは取り込みスタイルが似ているのだ。

といってドラグを否定するわけではない。最近のお気に入りはシマノのトラウト用リアドラグであることは、別章にも書いてある。このリールを、LBのようにいちびって使うのが面白い。しかし、読者も機会があれば、一度LBをぜひ使ってみて欲しい。ドラグとは一味違う竿と身体が一体化した取り込みを、味わうことができるはずだ。魚を釣れば釣るほど、実はLBの方がやさしく簡単なリールと云うことに気が付くだろう。

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今回のコラム執筆に当たっては、許可なく発言を引用させて頂きましたT氏、G氏、S氏の諸氏に、お詫びすると同時に、これからも実り多き釣り人生を送られることをお祈りします。