沿岸掃除隊

沿岸掃除隊

ディディーモを広げるな!

昨今、漁業関係者の頭を悩ませているものに越前クラゲがあります。私も以前、若狭の沖磯で釣りをしていたときに遭遇、足元を埋め尽くす異様な光景に目が点になりました。越前クラゲだけでなく、珊瑚を食い尽くすオニヒトデや魚が寄りつかなくなる磯焼け現象、長年のバス問題など、釣り人なら水辺の生態系に関心を持たざるをえません。今回はニュージーランドのディティーモ問題を取り上げたいと思います。現地へ渡航される方はもちろんのこと、外来種問題に関心のある方は、ぜひご一読下さい。

この問題を紹介して欲しいとのご依頼があり、記事・写真については「ニュージーランドのディティーモ問題について」さんより、引用編集しております。

ディディーモってなに?

ディディーモ

ディディーモは珪藻として知られる単細胞の水生植物の集合体で形成される淡水藻です。微生物であるにもかかわらず、ディディーモは”Algal Blooms 藻の大発生”と呼ばれる肉眼で確認できる濃密な集合体を形成します。珪藻は細胞壁に珪土(砂の形成物質)を含んでいる面白い生き物で、ディディーモを触るとザラザラしているのはそのためです。ディディーモは葉緑素を含んでいて、その色素は太陽光線を利用して自分自身で栄養を作ることができます。

生息環境が最適になると、ディディーモ細胞は大量の織物のような液(粘液)を捻出させて水床に自身をしっかり固定します。始めの頃は盛り上がったニキビのように石に取り付きますが、次第に粘液が長くなって茎となり、厚い房状になって、他の植物や、流木、石などの表面を覆い尽くす頑固なマット状の集合体を形成します。河川に与える悪影響については以下の通り。

  1. 美観…景観を損ね大量のディディーモが一度に枯れると腐敗し、悪臭の原因になります。
  2. 生物…ディディーモの侵略により生息圏を追いやられる生物を失うことになります。
  3. リクレーション…水泳に適さず、滑りやすくなり危険です。
  4. 水道…水の摂取口をふさぐ可能性があります。
  5. 釣り…魚の減少、針や網にディディーモが絡みます、ウエーディングが危険です。
  6. ボート…エンジンの冷却水の摂取口につまります。
  7. 飲料水…浮遊物が増え、酸素量が減り、PHが変わり、味やにおいがするようになります。

ニュージーランドのディディーモ問題

ニュージーランドの南島でDidymosphenia geminata=Didymoとかrock snot(石鼻くそ)とよばれる水藻の繁殖が確認され、問題になっているようです。この水藻は釣り人によって各河川、湖沼に移される可能性が高いため、南島の有名河川、WAIAU川や、MARAROA川が禁漁になってしまいました。そのほか他の地域のHAWER川、BULLER川でもこの水藻が発見されています。

この水藻は水底に発生する藻の一種で、もし大発生すると巨大なマット状となって湖底や川底を覆い尽くす性質があります。ニュージーランド南島で2004年に見つかり、南半球で発見されたのは今回が始めてです。事を重要と見たニュージーランド・バイオセキュリティーは、各所への拡散を防ぐために2005年の12月、南島全てをコントロールエリアに指定しました。

厳守事項として、全ての道具、靴や釣具、衣服、車など、南島のいかなる河川の水に浸かった物は、他の水系に入る前に必ずきれいにしなければならないと法制定されました。ディディーモを故意に拡散した者には懲役5年そして/もしくは$100、000(800万円)の罰金という厳しい罰則からしても、ニュージーランド政府の対応の真剣さがうかがえます。WAIAU川、MARAROA川は、この2月の大洪水でディディーモが殆どが流され、禁漁が解除されています。

2005年12月末の時点では、ニュージーランドの南島、オタゴ、サウスランド周辺の4河川で発見されたという情報でしたが、2006年1月末、私たちが訪れた時点ではかなり広範囲の地域に広がっているようでした。モンスターブラウントラウトで有名なオレティ川も多分にもれずディディーモがすでに確認されてます。隣接するマタウラ川は無事な状態でしたが、上流部が近いマタウラ川、オレティ川間は釣り人の往来が多く、また、鴨、白鳥などの水鳥によって運ばれる可能性もあるはずですから、世界的に有名なマタウラ川の鱒釣りも時間の問題といった危機感があります。

私たちも、バイオセキュリティー・ニュージーランドのガイドラインに従い、Biodegradable(生物分解性)の洗剤を5%ほどまで薄めて、ウエーダーやウエーディング・シューズ、釣り具の洗浄をしました。最初に入った川はディディーモが殆ど見られない河川でしたので、一応の儀式的なものとして行なう程度でした。ところが、行程中、何の気なしに入った、ワナカのハウェア湖から流れ出すハウェア川でその重大さを目の当たりにしたのです。高台から眺めるハウェア川のプールは美しいグリーン色、底はなぜか黄土色でした。黄土色の岩や石と思って近ずいた川床を見て誰もが目を疑いました。そこは一面に広がるディディーモの群生地だったのです。

急流の中の直径1mもある大石を3〜6cmもある厚さで黄土色に覆い尽くし、踏んだ感触は毛足の長いじゅうたんそのもの。踏みつけても石の感触が感じられず、滑りやすく、ウエーディングがままならない状態でした。上流部、酸素の吟有量の多いチャラ瀬では、ディディーモが川床を覆い尽くし、石と石の隙間が見られないような場所もある程です。このような状態では瀬を好む水生昆虫達は生存できないのではという不安が募りました。

成長しきったディディーモは濡れたティッシュペーパーがちぎれたような色、形状となり流され、冬に落ち葉がたまるようなバックエディ(流れの巻き返し)に、白い帯状となって厚く堆積していました。ニンフ・フィッシングを試していた友人は、キャストごとにフックに付着してくるディディーモに閉口し、沈める釣りをあきらめ、ドライフライのみの釣りに限られてしまったほどです。魚とファイトをしていても流れディディーモがリーダに絡みつくなど、見た目以上に深刻な状況であることを実感しました。


河原周辺や瀬の中、茶色や黄色く見えるのが全てディディーモ)

ディディーモが日本で発生する可能性

このディディーモはヨーロッパ周辺、北アメリカ北部にに同じような藻が在来種としてあることから、ヨーロッパ、もしくは北アメリカから、釣り人もしくはボートに付着して持ち込まれたのではと推測されているようです。ここ10数年、世界中から脚光を浴び多くの釣り人やカヤッカー、その他の観光客がおとずれる観光王国ニュージーランドへの大きなしっぺ返しでしょうか。ということは、ニュージーランド南島の川をで釣りをした観光客がディディーモを日本に持ち帰ることもありうるわけで、もし、このディディーモが日本に上陸し、蔓延した場合のことを心配する必要があるのでは、と思います。

日本には伝統的なアユ釣を始め、ありとあらゆる釣りがあります。ディディーモが大発生すれば、釣針や糸にディディーモが掛かって釣りにならないでしょう。そればかりではなく、このディディーモの繁殖でアユの食べ物ケイソウや水生昆虫の食べる小さなコケ類を失うことにもなりかねません。水生昆虫が育たなければ、小魚や渓魚がいなくなるでしょう。仕掛けを流すたびにディディーモが針に付いてくるだけの魚のいない川。考えただけでも恐ろしい事態です。鱒の育つ環境で繁殖することのできるディディーモ。その広がり、成長速度の早さからみて、もし日本に持ち込んだら、魚の生存を脅かし、川や釣りにかかわる産業が打撃を受ける可能性も十分あります。

今、この危険なディディーモを日本に持ち込む可能性のある生物は、ニュージーランドからの渡り鳥、と釣り人、カヤッカーです。釣り人の道具、特にウエーダーやウエーディングシューズ、ランディングネットは乾きにくく、ディディーモの細胞を生きたまま運び込むことが考えられます。カヤッカーのスペイ・スカートに付着してくるかもしれません。この侵略的不要生物を日本に持ち込まないようにするには、ニュージーランドの南島に出かける人々が、事前に認識し、予防して頂くことが最も重要なことであることは間違いありません。また、ニュージーランド以外でも、ディディーモの確認されている北アメリカ北部や北ヨーロッパへ渡航する場合、同じように注意、予防が必要です。

そこで、どれほどのディディーモ情報が入手可能かインターネットで検索したところ、2006年2月15日現在Didymoの英語検索では60000サイト以上見つかったのに比べ、Didymo、ディディーモ、ディディモとそれぞれ日本語検索して、問題の水藻、「Didymo」について見つけられたのはたった2〜3件だけでした。そのことからみても、ほとんど日本の人には知られてない事実と考えられます。

これから日本の渓流の解禁と、ニュージーランドのシーズン終盤が重なる時期となり、ニュージーランド南島のフィッシングから帰国して、すぐに、同じ釣り具を使用して日本国内で釣りに出かける人もいるでしょう。連日のように日本人がフィッシングを楽しみに出かけているニュージーランド南島から誰かのウエーディングシュズに隠れ、明日にでもDidymo(ディディーモ)がやってくるかもしれません。誰もDidymo(ディディーモ)を持ち帰らず、日本の川が永遠であることを祈ります。

できれば、これを読んだ皆様の協力で、ニュージーランド南島や世界各地を旅する人々にDidymo(ディディーモ)の脅威を呼びかけていただければ幸いです。

※ディディーモの確認されている国は次の国々です。
ニュージーランド南島、アメリカ西部、カナダBC州、フェロー諸島(スコットランドの近く)、ノルウエー、 スバルーバル(ノルウエーの近く)、イギリス、アイルランド、スエーデン、、フィンランド、フランス、スペイン、スイス、トルコ、ウクライナ、ポーランド、ルーマニア、、ハンガリー、アイスランド、ロシア 、キルギスタン、カザフスタン、チャイナ、モンゴル、パキスタン .(GLOBAL INVERSIVE SPECES DATABASE より)


ディディーモ問題の経緯、消毒方法等、厳守事項など
より詳しいことについては、以下のサイトをご参照下さい。
ニュージーランドのディティーモ問題について

2006.2.25