沿岸掃除隊

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NY釣り事情 魚類保護と法律

海外特派員のhidekiさんからホットなお便りをいただきました。海外の環境保護と釣り事情のレポートです。以下原文のまま、3章をご紹介します。

レポート その1

ニュージャージーのhidekiです(^^)v
豊かな資源があってこそ釣りは楽しめます。ということでUSAの水産資源保護政策をレポートしました。アメリカでは魚の漁獲量が捕獲する水域によって、国(Federal)もしくは州(State)によって規制されています。それぞれ海のある州にはThe Bureau of Marine Fisheries(州によっては呼称が違ったりしますが、海産局とでも訳せるのでしょうか) というものがあります。(内陸の州ではMarineが抜けて水産局とでもいうのでしょうね)役目は漁獲対象となる魚と、その生息環境の保護、保全、繁殖地域の確保になります。

例えば私の住んでいるニュージャージー州は水産も一つの経済基盤になっています。水産と言うとすぐ俗に言う漁業(Commercial fishing)を連想してしまいますが、遊漁業(Recreational fishing:レクリエーショナル)も立派な漁業で、恐らくアメリカの海に面している州は多かれ少なかれrecreational fishingとしての漁業の地域経済に対する経済効果が考慮されています。もちろん内陸の川や湖では逆にrecreationalの割合が大きく、稚魚の放流などは州レベルで行われライセンスも州が発行しています。

※笑魚注)Recreational fishing:日本でいうところの遊漁ですね。日本の法律の多くは欧米に範を取っていますから、いわゆる遊漁法も米国の事情などを参考にしたと思われます。

経済効果と漁獲制限

さて、産業としてのrecreational fishingを見てみましょう。Commercial fishing は漁獲高が直接その土地の経済に影響します。ところがrecreational fishingの場合、遊漁船の収益が直接その土地の経済に影響するだけではなく、州内や隣接の州からニュージャージーに釣りに来るために落とすお金、遊漁船とは別に個人が釣りを目的として、保有する船を係留したり船を出すために落とすお金や、マリーナに来るための交通費や、宿泊代なども無視できません。 

ニュージャージー州のマリーナを見てみると、湖沼でバス釣り用に使われるような喫水の浅いフライフィッシング用の、船頭さんを入れても4人しか乗れない船から、外洋に出てトローリングをする6人乗りの船、15人くらいから100人以上乗れる乗合船までが遊漁船として見られます。また個人で湾内(汽水域)でカレイやスズキ釣りをするために持っている2人乗りの小さな舟から、200キロ沖合いに出てマグロやシイラ、ブルーマーリンを釣るためのトローリングができる船が、ヨットやプレジャージャーボートと共に無数にマリーナには係留されています。もちろん、全てのマリーナで遊漁ビジネスが行われているわけではありませんが、個人が釣りをするために係留している船は、どこのマリーナでも相当な数が係留されています。そのマリーナの数も半端ではないので、これらの船がもたらす経済効果を、地域ひいては州が無視することはできません。

NEW JERSEY一口メモ
hidekiさんは、NYとハドソン川を挟んで対岸のNJ州に住まれています。日本で云えば神奈川のような位置づけでしょうか。観光とアトランティックシティのカジノが有名。名高いプリンストン大学があります。比較的日本企業が多く、歌手のF.シナトラ、B.スプリングスティーン、俳優J.ニコルソン、M.ダグラスはこの州の出身(笑魚注)

詳しく説明するまでもなく、漁獲量の制限は水産資源の保護が最たる目的で、先進国では必ずその割り当てが設定されています。アメリカにおける漁獲量の制限はそれぞれの魚種に対して設けられていて、その中でcommercial fishingとrecreational fishingに対する割り当てが配分されています。もしrecreational fishingに漁獲量の制限を設けなかったらどうなるでしょうか?魚の数はだんだんと減少して、最終的には滅多にお目にかかれなくなってしまいます。この現象がさまざまな魚種で起きてしまったらcommercial fishingに多大な打撃を与えるだけではなく、recreational fishingの産業そのものの存在がおびやかされてしまいます。

極端な例えになってしまいますが、州一帯近くの水域から魚が消えてしまったとします。釣る魚がいなくなってしまうわけですから、毎年春にはボートを出して冬になるまで週末の釣りを楽しんでいた人たちも、忽然といなくなってしまうわけです。 すなわちrecreational fishingそのものが存在しなくなってしまいます。そこには係留代、船のガソリン代からマリーナまで来るための費用、宿泊などさまざまなエリアで、地域経済の財源に影響してきます。勿論recreational fishingが占める州の財源の割合は微々たるものですが、特定地域の経済に対する比率は非常に高いものです。ここにrecreational fishingに対する漁獲量の制限を設けることによりcommercial fishingを守るだけではなく、recreational fishingをも保護する事となり、州としては地域経済の安定化にもつながってきます。海産局では漁獲量の制限を設けることによって、漁獲対象となる魚とその生息環境の保護、保全を保っていることになります。

積極的な資源育成

もう一つ海産局で行っていることで、繁殖地域の確保には人工漁礁の設置があります。ニュージャージーでは1984年からのプログラムと言うことですが、瓦礫、船、はしけ、戦車を沈めたり、コンクリートの漁礁用ブロックを沈めたりして、人工漁礁を増やしていっています。 現在ニュージャージーには14の漁礁があり、1828のパッチが沈められています。1つのパッチは1メートル四方のコンクリートから、1隻のタンカーまでさまざまで、毎年人工漁礁を増やしていっています。人工漁礁の一つに穴のあいた専用のコンクリートブロックが有るのですが、直径4フィート(120cm)、高さ3フィート (90cm)、重さ1500ポンド (675kg)で、1個$200, 10個で$1000です。個人が寄付することもできます。このような人工漁礁の設置は国レベルからのサポートもあります。

話を戻しますがニュージャージー州では海産局と、Office of Environmental Review(環境検査局とでも訳すのでしょうか)と連携しながら漁獲制限を毎年決めています。このプログラムには行政機関からはもちろんのことですが、教育機関(海洋学)や、ダイバー、海を好きな人たち、釣り人が参加して、さまざまなデータを収集したり、漁礁の設置の手助けをすることが出来たりします。データの収集には釣った魚にタグをつけて放流し、レポートをすることも含まれます。特にスズキ(Striped Bass)に関してはこのデータが大変重要だそうです。

資源保護政策の実例

ここに一つのデータがあります。SCUP(Porgyとも呼ばれています)と呼ばれる魚がいて、学名はStenotomus chrysops、黒鯛に似ている淡いピンクっぽい銀色の魚です。刺身にしても塩焼きにしても干物にしてもひじょうに美味しい魚で、夏にこれを釣りに行くのが楽しみです。3年で成魚になり、そのときのサイズは平均8.3インチ(21cm)、通常のサイズは9インチ (23cm) から13インチ (33cm) が大半で、カナダからフロリダまでの東海岸の沿岸から大陸棚にかけて生息しています。5月から6月が産卵期で、一回にメスは7000個の卵を産むそうです。さてこのSCUPですが、1960年のピーク時にはニュージャージーでのCommercialの漁獲量は2万2千トンあったのが、1997年には僅か2千3百トンまで落ち込んでいます。Recreationalも同様で、1950年代は908トン有った漁獲量が2000年は33万5千匹、91トンになってしまっていました。 乱獲のせいでしたが、規制をかけた効果が現れだした2001年は、58万5千匹の漁獲量にまで増えました(個人的に不思議なのは、どうやってRecreationalの漁獲量を算出したかですけど…) 。

さて、この規制がBag Limitです。Bag Limitは読んで字のごとく、袋のリミットです。袋のリミット?そう、釣れた魚を袋に入れて持って帰ることを想定しているわけですが、その袋に入れる魚の量の制限です。2001年のScupのBag Limitは9インチ以上で、1日1人50匹まででした。Scupの制限はサイズと数量にとどまらず期間もあります。2002年のニュージャージー州の規制は2001年と同じで、産卵の終わった7月4日から12月31日までです。ちなみにニューヨーク州ではサイズと数量は同じですが、期間が少し違い7月1日から11月17日までとなっています。Bag Limitをリストしたいのですが、長くなるのでリンクにしました。

●ニュージャージー州
http://www.state.nj.us/dep/fgw/marreg01.htm
●ニューヨーク州
http://www.dec.state.ny.us/website/dfwmr/marine/swflaws.htm

さて、いかがでしたでしょうか。アメリカでrecreational fishermenが、このBag Limitについて不満を持っているのですが、詳しい話はまた固くなってしまうので、この話は一回飛ばします。

レポート その2

NY釣り事情:魚類保護で、紹介したアメリカ(ニューヨーク、ニュージャージー)におけるrecreational angling bag limits (and seasons and minimum size) すなわち遊漁業における漁獲規制について、Recreational Angler(一般の釣り人)の立場から意見が持ち上がっていますので、ここに紹介したいと思います。もちろんここに掲載する意見は一人の釣りを愛するアメリカのウェッブマスターの意見ですが、様々なBBSで同じような意見が交換されているのと、解りやすく解説されている事もあり翻訳してみました。誤訳が無いようにしているつもりですが、オリジナルを読まれたい方はhideki@onuma.netまで連絡をください。

米国の遊漁業/魚獲規制に物申す

先ず私がなぜこのような意見を知ったかというと、何処で何が釣れるのかを知りたくてネットを泳いでいたのが始まりでした。www.mels-place.com というサイトを管理しているMelという人が定期的に(最近サボっているみたいですが)「何処で何が釣れている」というコラムを出していて、そのコラムの中に数回Bag Limitについて意見を述べていたのをある日、目にしたのです。その時は特に自分の意見をもつでもなく読み流してしまいました。その後「魚とあそぼ!海釣り道場」のChatRoom 「みんなでよいしょ」(正確にはTeam1000の中)にて、日本とアメリカの釣りに対する意識の違いを感じるにあたり、Bag Limitに対する意見を思い出しました。

ニューヨーク近郊で昔から釣りをしていた人たちに言わせると、それこそ1980年代までは魚影も非常に濃く、現在科されているようなBag Limitというものとは無縁だったそうです。Hidekiは最近本腰を入れて釣りをするようになったわけですから、すでにBag Limitなるものは存在しておりBag Limitの背後には資源保護というものがあることも感じていました。したがって「Bag Limit =あたりまえ=文句をつける術が無い」です。逆に昔は無制限に魚を釣っていた人たちにしてみれば、年々漁獲規制が厳しくなっているわけですから反対意見も持ち上がって当然でしょう。もちろん資源の保護は犠牲を払ってでも行うべき事で、その点はRecreational Anglerは文句無しに了解しているのですが、厳しくなるだけで一向に緩まない規制に対しては異論を唱えています。

私が目にしたコラムはMelが定期的に載せているニュースの一部だった事もあり最新のMelのウェッブのページには残っていませんでした。そこでMelにメールを出してオリジナルの記事をせがんだ所、要点を簡潔にまとめたメールを記事と共に送ってきました。翻訳するについてはMelからも了解を得ており、彼は以下のように結んでいました。

“I stand by my words and I don't mind if you include my name and website link in your document. Good luck and good fishing.”

「自分の述べた意見に責任を持っているから、名前とウェッブのリンクを載せて貰っても一向に構わない。頑張ってくれたまえ」って感じでしょうか。以下がMelから送ってきたメールの翻訳です。なお、元になった記事については長くもあり、重複している部分もあるので割愛しています。以下Melからのメール翻訳文↓

遊漁業の漁獲規制は自発的に設けられたものではありません。この規制は行政や産業の官僚達が国家政府機関を通して作り上げた法律です。捕獲総数、漁業期間、最低サイズは魚種毎に毎年捕獲されても、存続が可能なすなわち絶対数を減らさない数を元にして決められています。ここで決められた漁獲量を調整機関が遊漁業と商業漁業に分配します。

一見何ら問題のないような規制に見受けられますが、この分配の構想には幾つかの問題があります。第一の問題として漁獲量を取り決める人たちが、遊漁業に対する規制も取り決めているという事です。第二の問題として漁獲量を設定する時の科学的判断材料が非常に少ないか、根拠そのものについて様々な論議があるという事です。第三の問題は行政機関が商業漁業に対しての割り当てを優先する事です。アメリカにおける商業漁業の産業界は非常に組織的で、かつ的が絞られておりロビー活動のための資金も潤沢です(ロビー活動とはhttp://www.mainichi.co.jp/edu/school/keyword/2000/09/j-05.html)。彼らのロビー活動は商業漁業の育成のため、行政機関に直接向けられています。それに反して我々Recreational Angler(てんでばらばらで金もない)は我々自身で必要だと思われる漁獲割り当てを貰えません。

さて、年間漁獲量が決まり遊魚と商業に分配されると、調整機関がそれぞれの漁獲数、漁業期間、最低サイズを年間漁獲量を超えないとされる範囲で決定します。この年間漁獲量をあわせるには幾通りもの組み合わせで調整する事が出来ます。 

残念ながらRecreational Anglerにとって漁獲量をレポートするメカニズムには不備があります。商業漁業セクターと違い、遊漁で水揚げされた漁獲量を正確に把握する事は困難です。したがって毎年遊漁で水揚げされた漁獲量を調整機関が概算しているのですが、この概算値が非現実的であり不正確なのです。悲しい事に調整機関が年間の漁獲量を最新の公式を当てはめて再計算すると、その年に割り当てられた漁獲量を超えてしまうという結果が出る事がしばしばです。 翌年には超えた漁獲量分だけペナルティーとして次の年の漁獲量から差し引かれます。

また魚のストックが戻った後も、官僚達はRecreational Anglerに対して更に過酷な規制をかけて、魚を捕らせないようにしています。私は海洋環境がその魚種をサポートできないまで保護しなければ官僚達の気がすまないのではないかという気が時々していて、見当違いも甚だしいのではないかと考えたりしています。我々Recreational Anglerにとっては非常に辛い境遇で、私もこの状況に対して憤慨しています。(以上)

つたない翻訳ですが、Melの言わんとしている事は理解していただけましたでしょうか。ちょっと大げさな所もあるとは思いますが、基本的な部分はなるほどと感じています。釣れた魚のお持ち帰りが出来ないのであれば、Catch and Releaseという釣りの楽しみ方もありますがhidekiは釣るだけではなく、自分で捌いて料理して食べての全てのプロセスが釣りだと思っているので、お持ち帰りが出来ないと楽しみが半減してしまいます。自分が食べる分だけ釣った後は全部リリースをしている人もアメリカには結構多いですし、スズキは特に規制が厳しく持ち帰れるのは2匹まで、後は釣れてもリリースしなければなりません。Hidekiは逆に数が釣れる時は出来るだけ釣って(もちろん規制内で)、帰ってからご近所におすそ分けをしています。日本と比べるとスーパーの魚達は極端に鮮度が落ちるので、なかなか刺身でと言うわけには行きません。せめて大漁だった時くらいは近くの人たちにも新鮮な魚を食べて貰おうと思っていますが、やはり沢山釣れている時には小さい魚はkeeper size(キーパー /お持ち帰りサイズ)でもリリースしています。  

この間カレイを釣りに行った時ですがこんな話を耳にしました。アメリカでカレイは冬の間中汽水域でじっとしていて、春になって日照時間が長くなり水が温む頃、活発になって初夏には海へ出て行きます。大きくなって冬になる前に海から汽水域に戻り、冬を過ごす準備を整えます。われわれニュージャージーのRecreational Anglerは春は3月1日から5月31日まで、秋は9月15日から12月31日までの間のカレイ釣りが許されています。この時期は汽水域から海に出て行くか、海から汽水域に戻ってくるかの時期で、結構浅瀬での釣りになります。商業漁業のカレイの捕獲は主に底引き網漁船によって海で行われ、汽水域に戻ってくる時期に大きいカレイは捕獲されてしまい、冬にかけて釣れるカレイはさほど大きくありません。そして小さいカレイが越冬します。越冬中は大きくなりませんから、春に見られるカレイは小ぶりのものが多いです。ニュージャージーでのカレイのbag limitはサイズは最低11インチ(28cm)で数量の制限はありません。結構釣れてもサイズが足りず、リリースするカレイの数の方が多いです。もちろん商業漁業にも漁法、網の目のサイズや禁漁期間、最低捕獲サイズの規制は存在します。

さて、このカレイの漁獲規制に対して多くのRecreational Anglerが問題視しているのは、商業漁業に科される漁場の制限や規制が甘い事です。汽水域に近い沿岸での漁業が許されているわけですから、漁船は効率よくカレイの捕獲をする事が出来ます。ニューヨークのデータですが、1990年に遊漁業では1,106,590ポンドの漁獲量、商業漁業では640,445ポンドの漁獲量がありました。2000年には、遊漁業の漁獲量は293,472ポンドまで落ち込みましたが、商業漁業では逆に960,122ポンドと、1990年と比べると1.5倍に増えています。釣り人の間の議論では、商業漁業が一方的に悪いと考える人もいれば、自分たち自身が行政に対してアクションを起こさなければならないという人もいますし、商業漁業だけではなく釣り人もカレイの釣れない原因を引き起こしたと考えている人もいます。

DEC (Department of Environmental Conservation) Marine Fisheries (環境保存局海水産資源課)では、汽水域に生息するカレイと海で生息するカレイはそれぞれ別系統と認識しているので、商業漁業に特に重たい規制をかける必要がないという見解を持っていますし、現在最も厳しい規制がされているスズキが、カレイを捕食しているのではないかと考えている人もいます。カレイに関する規制が商業漁業に有利なように意図されたものか、そうでないのか正直hidekiにはわかりません。どちらにしても人間が自然を把握する事自身に本来無理があるのかなと考えちゃったりもしています。この手の話はカレイだけではなくほかの魚種にもあります。

ネガティブな話ばかりではなく釣り人にとっていい話、すなわち規制の緩和もあります。日本では見かけないBlack Sea Bassという魚が大西洋岸にはいます。刺身でも塩焼きでも美味い魚で、去年はお持ち帰りサイズは最低11インチで、5月10日から2月29日まで釣りが許されていたのですが、3月の初めにこの規制が変わりお持ち帰りサイズが11.5インチになり、1年中釣っていい事になりました。サイズは0.5インチ大きくはなりましたが、この改定はRecreational Anglerに歓迎される改定だと思います。

さて魚類保護からの続きの話でしたが、いかがでしたでしょうか。遊漁業と商業漁業、片やレジャーのため片や生活のため、いわば相容れない間柄といっても過言ではないと思います。この二つが上手く棲み分けることの可能な道を見いだすことが出来るかどうか。まだ規制が始まって十数年と日も浅いわけですから、今後の動きをじっくり見ていきたいと思っています。

その3

今回も魚類保護に関する話題ですが、我々Recreational Anglerの活動に焦点を当ててみました。アメリカ東海岸は地球でも有数の魚類の豊富な地域です。湾内から沿岸、沖合いまで幅広く多くの魚類が生息しており、これらの魚類は我々の生活をあらゆる方面から支えてくれています。もちろんRecreationもその一つですが、近年Recreationの対象となる魚達が減りつつあります。減りつつある原因には、もちろん減少している魚達が乱獲されている事もありますが、それ以外にも要因はいたるところにあると考えられています。その大きな要因の一つに、釣りの対象となる魚が主食とする魚そのものが激減していることも挙げられています。 

Menhadenという魚

アメリカ東海岸全般でRecreational Anglerに人気のある代表的な魚のうち、スズキ、サバ、タラ、カツオ、ブルーフィッシュ、マグロ等が最も好んで捕食する魚の中にBunkerと呼ばれる魚がいます。BunkerとはAtlantic Menhadenの俗名で、学名はBrevoortia tyrannusといいます。ニシンの類で北はカナダから南はフロリダまで生息する回遊魚で、Alewife, Pogy, Bugmouth, Fat-Backとも呼ばれていますが、釣りの対象でも食用でもなくRecreational Anglerにとっては、釣り餌やこませになる魚です。2年で成魚になり、大きいものでは38cmに達するMenhadenは3月から5月までが産卵期で、沿岸から大陸棚にかけて産卵してから75日で孵化します。孵化から1ヶ月ほどたってから汽水域に入り込み、秋になると1年魚、2年魚と共に海へ出て行きます。稀に見る大規模な集団で回遊する魚で、その規模は面積にするとサッカー場くらい、深さは30m位になるそうです。

工業価値

Menhadenは脂肪分、蛋白質分が非常に高く、工業用原料としてアメリカの植民地時代の頃から捕獲されています。19世紀始め頃は主に燃料と肥料に加工されており、19世紀後半には油は石鹸やリノリウム、ペンキの原料や布地の防水加工用として、油を搾取した後のかすは家畜用飼料として利用されるようになりました。ちなみにアメリカでは、魚から油や魚粉を取る作業をReductionと呼びます。第二次大戦後、1953〜1962年がこの産業界のピークとなり、多い時で年間70万トン以上の水揚げがありました。乱獲がたたり1960年代から1970年にかけて、多くの工場や漁船が廃業に追い込まれ、1955年には150隻の漁船と31の工場があったのが、1933年には31隻の漁船と5つの工場にまで減りました。1981年には大西洋岸のMenhadenを管理する機構が発足し、大西洋岸の各州がMenhadenの漁獲量の設定や法律を作れるよう、様々なデータの収集や研究の結果を提供しています。現在は年間30万トンから40万トン前後の漁獲量で推移しており、化粧品の原料、ペットフード、肥料、養鶏や養豚の餌、魚粉、魚油、マーガリン、料理油、そして撒き餌等に加工されていて、キロ当たり浜値は20円から30円くらいで取引されています。

Menhadenの捕獲方法は、まず飛行機でMenhadenの群れを探し、その群れを2隻の船で網を用いて囲うようにして、捕獲(まき網漁法)しますが、最近は飛行機によるMenhadenの探索は禁じられています。飛行機での探索が行われていたまだ戦後間もない頃は、Menhadenの群れの密度も濃く、高度三千メートルからでも群れが島のように見え、おびただしい数の漁船がその群れに対して操業していました。大方は網から逃れてしまったにもかかわらず、大漁だったそうです。現在Reduction産業は、数の減ったMenhadenの群れを外洋で探索する飛行機の助けを借りず、より沿岸、それも捕獲の簡単な湾内で操業をしているのが現状です。Reduction産業は、漁船や工場のハイテク化や統合で漁業、工業効率は良くなった反面、厳しい漁獲量制限に対しては、管理機構や研究団体が出すデータの根拠に信頼性が置けないという理由で、規制を緩めるよう各州に働きかけています。

海洋生態系価値

我々人間の口には直接はいらないMenhadenですが、常に口をあけて泳ぎ1分間に26.5リットルの海水を濾過しながら植物性、動物性プランクトンを取り込むMenhadenは、海洋生態系にとって非常に重要な魚です。先ず海水を濾過する事により水中の濁りを取り除き、海藻に届く日光の量を増やし光合成を助けます。結果、海中の酸素が増えると同時に海藻自身が繁殖し、他の海洋生物の栄養にもなります。また、海の生物に多大な被害を与える赤潮の発生の原因には、窒素やリンを含んだ生活排水が海水に流れ込み藻類に、栄養分を与える事が挙げられます。この異常発生しかける藻類をMenhadenが濾過する事によって、赤潮の発生が抑えられる事も解っています。もう一つMenhadenの重要な役割としては、食物連鎖のピラミッドの下位に位置して、ピラミッドの上位に位置するスズキ、サバ、タラ、カツオ、ブルーフィッシュ、マグロやその他の魚類だけではなく海鳥や海に住む哺乳類(そして、最終的には人間)を支えている事が挙げられます。19世紀の魚類学者G. Brown Goodeはほんの少し誇張させて「大西洋に住む魚を食すということはMenhadenを食すということだ」と述べています。

Menhadenの減少による影響

まず餌となるMenhadenが激減していることから、その餌を主食としている魚が減ってきています。環境保護局の大西洋生態系課によれば、Menhadenがまき網漁法によって激減している事を過去20年間で確認しており、やはり20年間にわたるスズキのうろこを研究した結果、栄養が脂肪価の高いMenhadenから、栄養価の低い水産無脊椎動物(ゴカイ、イソメ、蟹、貝などの背骨の無い動物)に移っている事が確認されています。この事はスズキの筋肉の割合の減り具合や、体重の体長に対する比率が減っている事の裏付けにもなっています。昔の釣り人が釣り上げたスズキの写真と、最近釣り上げられたスズキの写真を、私が見比べても違いは顕著です。昔は丸々太ったスズキが、今はスマートになってしまったということでしょうか。

もう一つ例を挙げましょう。アメリカの首都ワシントンD.C.の傍にChesapeake Bayという東海岸の汽水域では最も漁獲量の多かった湾があります。ここで代々漁をする漁師がある日Rock fishという魚が、病気に罹っていて余りにも症状がひどかったので、大学の研究室に持ち込んで検査をして貰いました。彼自身も独自で調査した結果、栄養失調の為に抵抗力が弱まりバクテリアや、Pfiesteriaというプランクトンにより、病気に罹りやすくなっている事が判明しました。彼の話では昔はRock fishの胃袋はMenhadenで一杯で、時には半ダースものMenhadenが入っていることもあったのに、現在は胃袋は空っぽ、脂もぜんぜん乗っていない魚ばかりだそうで、Chesapeake Bay のRock fishの半数以上がこの状態だという事です。これもMenhadenが居なくなってしまった弊害の一つで、他にもいろいろな事例があるそうです。前置きが長くなりましたが、やっと本題です。

立ち上がるRecreational Angler

1981年に発足したMenhaden管理機構による調査を元にして、大西洋岸の各州はMenhadenの漁獲量規制に昔から乗り出しています。海に面する割合の非常に少ないペンシルバニア州と、ニュージャージー州は規制に関しては非常に緩やかで、去年までMenhadenのReduction漁港と、Reduction工場が残っているMaryland州やVirginia州から漁船が、ニュージャージー沿岸および湾内に操業に来ていました。ただでさえ沿岸の漁場が制限されているうえ、数の減ったMenhadenを求めてニュージャージーに来て、根こそぎとはいわないまでも大量に捕獲されるMenhadenに、ニュージャージーのRecreational Anglerは危惧の念を抱いていました。以下に挙げる3つの草の根団体が、Recreational Anglerの声を代表して、Menhadenを守る方向に動いたのです。

JCAA Jersey Coast Anglers Association 会員数3万人
RFA Recreational Fishing Alliance 会員数7万5千人
NJSFSC The New Jersey State Federation of Sportsmen's Clubs 会員数15万人

これらの団体の目的は、いずれも州議会や時には国議会に対して、ロビー活動を行いRecreational AnglerもしくはSportsman(この場合のスポーツマンは釣り人やハンターを指す)の要望を受け入れてもらえるよう働きかけることです。それぞれの団体へは、フィッシングクラブとして加入していたり個人で加入していたり、参加の方法はまちまちです。

さてニュージャージーでは1998年の2月に、MenhadenからReduction(魚から油や魚粉を取る事)のための捕獲を制限する最初の法案が提出されました。この法案が提出されるまでのいきさつの詳しい記録は見つからないのですが、1989年からこのプロジェクトに参加した人の記述を見ると、Menhadenの減少に懸念して各団体が州議員に働きかけています。この法案を可決させるために、各団体のホームページでは、議員に対して法案を審議をしてもらうための決議を速やかに行うようメールを出したり、会員に対しては傍聴会に出席するよう呼びかけを行っています。もちろん審議をしてもらえるとなった場合に、今度は法案を可決してもらうように再度メールを出したり、Menhadenを保護することの重要性の解説や、裏づける為のデータ、およびスライドショーをホームページに載せたり、さまざまな手法を凝らして働きかけています。

州内外を問わずMenhadenの産業を擁護する団体からの反論も載せ、一つ一つ解説もしています。どのような経緯があったのかは分かりませんが、最終的にこの法案を審議したのはなぜか農産委員会で$95,000をかけてMenhadenの調査を行う、と言うことで、この法案は1999年の12月に決着しました。州外からのReduction産業をニュージャージー沿岸から締め出すことはできず、Recreational Anglerの惨敗となりました。

ここで話が終わってしまってはつまらないので、もう少し様子を見て見ましょう。先に述べた草の根団体では、この措置に納得できず、新しく法案を提出してもらうべく行動を起こしています。その甲斐あって、2001年の3月も終わりに再度法案が提出されました。以前の法案は州外からのReduction産業だけでなく、州内にある釣り餌やこませを捕獲する産業までも、締め出してしまう法案となっていました。新しい法案は州外のReduction産業をターゲットとした法案になっており、受け入れられやすくなっています。各団体のホームページでは傍聴会に出席するよう促したり、各議員にメールを出すよう働きかけています。9月には州下院を通過して、州上院の審議にかけられることが決定しました。最終的には、暮れも押し詰まった12月に州上院を通過して、2002年の1月に州知事が署名してRecreational Angler念願の法律が出来上がりました。

余談ですが、提出された法案を否決するように働きかけた例もあります。われわれ日本人には耳の痛い話ですが、アメリカ東海岸に生息するうなぎの幼魚(アメリカでは釣りの餌位にしかならない)が日本では高価に取引されるそうです。この法案は経済を優先させ保護を考えないとされる法案でした。法案の可決を反対する団体、主にRecreational Anglerは魚類の保護を前提として反対しています。逆にこの法案を後押しする団体にも言い分はあり、その言い分をホームページにも載せています。ちょっと面白いのは、法案を後押しする団体の言い分の中に「高値で取引されるようになると、今まで餌の価値しかなかったものが、他の商業の価値につられて、価格が跳ね上がるから反対している」とか、「反対派が後押しするサイズの制限に関しては、釣りの餌として使い勝手がいいサイズとして制限している」などと述べているところです。もちろん研究結果の内容も解説していますが、この理論は笑えるものがありました。

釣り人が作る法律、いかがでしたでしょうか? Menhaden Lawに関しては、いずれは法律施行されたでしょうが、Recreational Anglerからのプレッシャーがあったからこそ、早く制定されたことは間違いないと思います。なかなかRecreational Anglerの意見は聞き入れてもらえないのが現状ですが、一つ一つ根気よく課題をこなしていくことが大切ですね。法律が出来るにあたっては、個人、団体、産業、自治体それぞれの思惑はありますが、このようなプロセスを経て、個人が参加して作り上げていく法律というものがあることを知った調査でした。

レポート/NY在住hidekiさん